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2010年9月18日 (土)

【映画】「彼女が消えた浜辺」

「彼女が消えた浜辺」

 テヘランからカスピ海沿岸の保養地へバカンスに出かけたロースクールの同窓生グループとその家族、総勢11人。予約時の手違いで部屋がとれず、代わりに案内されたのは浜辺の一軒家。ぼろいが、打ち寄せる波の音がよく聞こえる風情のあるたたずまいにみんな気に入り、キャンプ気分ではしゃぎまわっている。グループの一人、セピデーが誘ったエリは子供の通う保育園の保育士で、やはりグループの一人で離婚したばかりのアーマドに引き合わせようという魂胆だ。エリの穏やかな人柄にみんなは好感を持ち、この“お見合い”を面白がる。そうした中、連れてきていた子供が海で溺れてしまった。何とか救出されたが、今度はエリがいない。彼女も子供を助けようと海に入って溺れてしまったのか、それとも帰ってしまったのか? 残された携帯電話の着信記録をたどって連絡すると兄と称する男が来ることになったが、実はエリの婚約者らしい。思いがけない展開に息をのむ大人たちの表情は不安げにかたい。

 新参者のエリについてみんな口さがなく互いに論評しあうが、事件が起こってエリがいなくなったとき、はじめて彼女の本名を誰も知らないことに思い至る。「こんなことになるなら誘わなければよかった」「いや、子供が溺れているのに帰ってしまうなんてひどい奴だ」、また口々に言い合うが、結局、彼女がどんな人物で、何を考えていて、なぜ婚約者と別れたがっていたのか、誰にも分からないのだ。昨日の和気藹々としたムードは一変し、互いに非難しあう険悪さには心理劇としての緊張感がある。

 最終的にエリの“行方”は判明する。しかし、彼女が心の中で抱えていた苦悩は依然として謎のままだ。人は、相手が本当はどんな思いを抱えているのか分からないくせに表面的な印象だけで相手を判断し、それが繰り返されて当たり前のようになって日常が構成されていく。この映画では、その表面的なレッテル貼りで当たり前のように思い込んでいるイメージの裏で相手が本当に抱えている“分からなさ”そのもの、それが事件をきっかけに今さらのように際立たされていく。心理サスペンスとして描き出していく手並みが実にあざやかだ。

【データ】
監督・脚本:アスガー・ファルハディ
2009年/イラン/116分
(2010年9月18日、ヒューマントラストシネマ有楽町)

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» 映画:「彼女が消えた海」 その国「独自」あるいは「普遍的に共通」な感性を発見できるのが醍醐味。 [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
「瞳の奥の秘密」(2010-08-05 )の時も書いた. 通常触れられない世界の映画をみると、ハリウッド映画や日本映画にない生活の「その国」独自な「感性」を発見できるのが面白い。 でいうと、今回は「イラン映画」 なのだけれど、普遍的にうなづける部分と、そうでない部分を発見するのが醍醐味! バカンスのはずが、事件発生で一転して鬱々たる日々に陥るグループ。 タイトル通り、1人の女性が忽然として消えてしまう。 彼女は死んだのか? それともただの失踪か? グループ各々のメンバーがおかれた状況や個性... [続きを読む]

受信: 2010年9月20日 (月) 09時25分

» 映画「彼女が消えた浜辺」(監督:アスガー・ファルディ)を見た [飾釦]
■製作年:2009年/イラン映画 ■監督:アスガー・ファルディ ■主演:ゴルシフチェ・ファラハニー、タラネ・アリシェスティ、他 イラン映画を見るのははじめてだったのですが、こんなにも緻密で文学的、映画的な面白さも加味されているとは驚きでした。正直、その細部まで及ぶ演出力の高さは、もしかしたら日本の監督もかなわないくらい高いのでは?と考えさせられてしまうほど完成度が高い映画でした。ある意味、知的スリリングに満ち、飽きさせない展開で地味ながらも衝撃的な度合いは強い面白い作品でした。ボクは今年になって映... [続きを読む]

受信: 2010年9月20日 (月) 10時50分

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