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2010年9月30日 (木)

廉思編著『「蟻族」──高学歴ワーキングプアたちの群れ』

廉思編著(関根謙監訳)『「蟻族」──高学歴ワーキングプアたちの群れ』(勉誠出版、2010年)

 中国八〇后世代の「大卒低所得群居集団」について同世代の若手研究者が調査した記録である。知能指数は高くて忍耐強いところから著者たちは「蟻族」と命名した。交通の便がよくて家賃の安い住処を求める彼らが集まった北京郊外の唐家嶺近辺に群居村が形成されており、本書での調査光景を見ると、「保護員」と称する者が水費=ショバ代を巻き上げるなど、ちょっと殺伐とした雰囲気だ。大学教育システムと社会的需要との雇用のミスマッチ、大都市にあこがれた地方出身者が多くいる点では都市と地方との格差、出身階層による格差など様々な現代中国の社会的矛盾がこの「蟻族」をめぐる問題からうかがえる。

 生活の苦しさや将来展望の不透明といった困窮からのプレッシャーにより彼ら「蟻族」の心理的剥奪感は強く、それが社会的憎悪に向かう可能性は容易に推測される。そうした不満は、具体的な要求を掲げた集団行動ではなく、感情的なはけ口としてインターネット上の炎上という形で表れやすいようだ。あるいは「反日」的ネット世論の形成にも彼らは一役買っているのだろうか。本書ではそこまで言及されないが、仮にそうだとすれば、日本のいわゆる「ネット右翼」にも同様に不遇な生活環境の中で不満を募らせている人々の多いことが想起される。彼らは政治主張としての是非ではなく、抱え込んだ不満の感情的はけ口として過激な言論に引き付けられていることを考えると、不満を抱えた社会階層という点では共通の属性を持った人々が国境を越えて互いにいがみ合っている構図が見えてきて、暗澹たる気持ちになってしまう。

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