【映画】「好男好女」
「好男好女」
侯孝賢監督による台湾現代史三部作は、ある家族の物語を通して二・二八事件の時代背景を描き出した「悲情城市」(1989年)、布袋戯の名優で侯孝賢映画にもたびたび出演した李天禄の日本統治期における半生を描いた「戯夢人生」(1993年)と続き、この「好男好女」(1995年)がラストとなる。
テーマは国民党政権下、1950年代の白色テロ。藍博洲『幌馬車の歌』を原案として、この粛清の嵐が吹き荒れた時代に処刑された鍾浩東とその恋人の蒋碧玉に焦点が合わされる。前二作が時代を真正面から描写しようとしていたのに対し、こちらでは現代の女優(伊能静)が映画で蒋碧玉を演じるという設定で、彼女のプライベートと過去の事件とが交錯する二重進行のストーリー構成となる。女優自身が恋人を失い、拠り所ない感覚を引きずった悲しみと、蒋碧玉が恋人であると同時に革命の同志でもあった鍾浩東を失い、そうした事態を冷静に受け止めようとする悲しみ、時代を超えて二つの悲しみのあり方が浮き彫りにされる。
今の時点から観てみると、侯孝賢もすでに古典になりつつある、つまりもう昔の映画になりつつあるという感じもするな。蛇足ながら、ネット上の感想を見ていたら、蒋碧玉たちが抗日戦に参加するため大陸に渡った際、中国軍の将校がねちっこく質問するシーンについて脚本が下手だ云々というコメントを見かけた。あれは①言葉がうまく通じない、②台湾出身者は常に日本のスパイと疑われていたという二つの背景をたくみに凝縮させたシーンだが、台湾史を知らないとピンと来ないかもしれない。中国語と一言で言っても方言的な差異が極めて大きく、戦後、台湾で大陸出身者と衝突した要因の一つだと言っても過言ではないくらいだ。例えば「悲情城市」も注意深く観ていれば同様のシーンがある。伊能静は日本ではあまり知られていないが、台湾の書店では彼女のエッセイ本なども見かける。「海角七号」でブレイクした田中千絵のはしりのようなものか。
【データ】
監督:侯孝賢
脚本:朱天文
1995年/台湾・日本/108分
(DVDにて)
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コメント
最後の、火のみ赤くて他はモノクロで、亡くなった夫の傍らで供養している碧玉の姿がとても悲しくて、今まで観たどのモノクロ映画と比べて強烈に印象に残り、一生忘れないだろうと思いました。二階に横たわっているのも意味深気だと思います。あの手紙「永遠ニ君ヲ愛シ~」にも泣きました。蒸気機関車の音を背景に銃殺される人の名前が貼り出される場面がヒッチコックみたいで不気味でした。侯監督作品の青春4部作も良いのですが、このように重厚な作品を創造できるとは同じ人とは思えません。
投稿: 山田みどり | 2021年10月10日 (日) 09時44分