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2010年9月15日 (水)

バーバラ・エーレンライク『ポジティブ病の国、アメリカ』

バーバラ・エーレンライク(中島由華訳)『ポジティブ病の国、アメリカ』(河出書房新社、2010年)

 著者がワーキング・プア生活の体験取材をしたノンフィクション『ニッケル・アンド・ダイムド──アメリカ下流社会の現実』(曽田和子訳、東洋経済新報社、2006年)は以前に読んだことがあった。本書も同様にアメリカ社会の病理をえぐり出す趣旨で、社会時評的な内容。

 ポジティブ・シンキングといった場合、単に漠然と前向きに考えるという程度なら構わない。しかし、“成功”とか“素晴らしい精神状態”なるものを想定してそこへ向けて自分の“心”を操作していくという発想になってくると、目前の問題から唯心的な解釈で目を背けることにもなりかねず、その薄っぺらな自己欺瞞が気持ち悪い。自分の“心”を操作してハッピーになれるという考え方を裏返すと、他人によっても操作され得るという社会工学的発想につながる(その意味で、例えばA・R・ホックシールド(石川准・室伏亜希訳)『管理される心──感情が商品になるとき』(世界思想社、2000年)の問題意識とも関わってくるだろう)。自己啓発本、ニューエイジ本、スピリチュアリティ本などを読み漁るタイプは自分ではそうしたあたりに気づかないだろうが、主体的に考えているように見えて、実は奴隷の思考法だという逆説すらうかがえる。だから良い悪いというのではなく、現代社会の一側面を考える切り口として興味深い。

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