金賛汀『在日、激動の百年』『韓国併合百年と「在日」』
金賛汀『在日、激動の百年』(朝日選書、2004年)、『韓国併合百年と「在日」』(新潮選書、2010年)
どちらも内容的にほぼ同じだが、後者の方がやや詳しいようだ。在日朝鮮人をテーマとして、日本による韓国併合から現在に至るまでのバランスのとれた通史というのが意外と見当たらないので、両書とも良い手引きとなる。
戦前、留学生や労働者として日本への移入が始まり、1922年12月には日本渡航の自由化。戦時の強制的動員や貧困の中での苛酷な境遇。日本の敗戦直後、引き揚げ時の混乱、この時に約200万人いた在日朝鮮人は1946年末までにおよそ140万人が帰国したという。在日朝鮮人の法的地位は、「帝国臣民」→1945年に「解放国民」→治安対策として暫定的に「日本国籍保有者」→1952年の対日講和条約の発効と同時に「外国人」と変転。在日朝鮮人組織の変遷も分かりづらいが、一大組織として在日本朝鮮人連盟(朝連)が成立した、そして左右対立、親日派の存在などで紛糾、右派は民団を立ち上げた。朴烈が民族主義的無政府主義から反共の立場をとり、民団の団長になったというのは初めて知った。1955年には朝鮮総連が成立。当初は日本共産党との連携も持っていたが、朝鮮総連の拠って立つ金日成主義は共産主義とは全く異質な宗教的思想だと本書は捉える。総連、民団とも本国志向が強くて在日の問題を軽視、在日の定住志向が強まる中、権利擁護の運動をおこしたのは在日の中でも無党派的な人たちだと指摘。日本社会内での差別が薄まると同時に、民族意識も薄まっており、民族的アイデンティティーを保ちながらいかに日本社会と共生していくかという問題意識が示される。
些細なことだが、メモ。朝鮮半島では選挙は実施されなかったが、日本本土にいる場合には一応「帝国臣民」として選挙権があった。戦前の衆議院議員当選者の名簿などを見ていて目についたことのある朴春琴。この人については小熊英二が書いていたようにも記憶している。東京深川で朝鮮人居住のバラック強制立ち退きの圧力を受けたとき、朝鮮人代議士としての朴春琴に陳情に行ったところ厄介払いされてしまい(彼は右翼とつるんでいた)、そこで同じ選挙区の浅沼稲次郎に陳情したところ一生懸命に対応してくれた。そのため、次の総選挙では朝鮮人票が浅沼に流れて朴春琴は落選したという。
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