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2010年8月12日 (木)

【映画】「フェアウェル──さらば、哀しみのスパイ」

「フェアウェル──さらば、哀しみのスパイ」

 時代はブレジネフ政権末期。フランス企業のエンジニアでモスクワ駐在中のピエール(ギョーム・カネ)は上司から指示された人物に会いに行った。現われたのはKGBのグリゴリエフ大佐(エミール・クストリツァ)。機密情報の連絡役をやらねばならない羽目になってしまった。素人のピエールは家族まで危険にさらすことになるのを恐れてやめたがっていたが、グリゴリエフの「世界を変えたい」という意気込みにやがて巻き込まれていく。彼の流した機密情報はフランス経由でアメリカに渡り、レーガン政権はソ連が送り込んだ有力スパイを一網打尽、情報の非対称的優位性を確信してスターウォーズ計画を大々的に立ち上げた。情報不足でアメリカの動きについていけなくなった状況を危惧したゴルバチョフは政策転換を決断する。人知れず、文字通り「世界を変える」ことに貢献したグリゴリエフだが、彼は情報漏洩の容疑で身柄を拘束された。彼が情報流出源だとなぜ分かったのか? 彼を救出して欲しいというピエールの必死の懇願をCIAは無視する。作戦のコードネームは“Farewell”──。

 活動は公にならない、従って他人から評価されることがないし、その上、汚れ仕事ばかり。報われない。それにもかかわらず、スパイは何のために働くのか? 誰も信用はできず、心を打ち明ける相手もいない。完全な孤独。「国家のために自分の生活を乱されたくない!」と怒鳴るピエールに対し、グリゴリエフは「自分の息子が新しい世界に生きていければいい」と言う。単に手に汗握るポリティカル・サスペンスというだけでなく、“忠誠”の対象が何なのかという(ある種、実存的とすら言える)葛藤がギリギリのところまで突き詰めて迫られてくるのが描かれている場合には、この手のスパイもの映画は興味深く感じる。

【データ】
原題: L'Affaire Farewell/英題:Farewell
監督・脚本:クリスチャン・カリオン
2009年/フランス/113分
(2010年8月12日、渋谷・シネマライズにて)

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