ダンビサ・モヨ『援助じゃアフリカは発展しない』
ダンビサ・モヨ(小浜裕久監訳)『援助じゃアフリカは発展しない』(東洋経済新報社、2010年)
著者はザンビア出身の若手女性エコノミストで、原題はDead Aid: Why Aid is Not Working and How There is Another Way for Africaとなっている。援助依存がアフリカ諸国の政治腐敗や開発の遅れをもたらした、市場経済の適切な活用によってこそアフリカは困窮状態から抜け出せる、そのために援助依存からの脱却の道筋を提案する、というのが本書のアウトラインである。「本書は劇薬である」というのがオビの謳い文句であるが、ジェフリー・サックスのような援助重視のビッグ・プッシュ派への批判は近年では定着しつつあるから、読んでいて特に驚くほど極端な見解はない。議論の進め方はラフで大まかな感じだが、アフリカの開発問題について論点網羅的に見取り図を一望したい場合には役立つだろう。
市場経済の前提としてガバナンスが必要であるが、他方で欧米的価値観に基づく一方的な民主化圧力はかえって混乱をもたらしかねない(例えば選挙実施は民族対立や内戦を引き起こす)という論点は、Paul Collier, Wars, Guns, and Votes: Democracy in Dangerous Places(HarperCollins, 2009→こちら。邦訳は『民主主義がアフリカ経済を殺す』日経BP社、2010年)でも指摘されていた。
援助ではなく投資をアフリカに呼び込まなければならないが、その点で本書は中国のアフリカ進出について肯定的な評価をしている。一時期、欧米のジャーナリズムを中心に中国のアフリカ進出に対するバッシングが激しかったが、最近、この点でも議論の潮目はアカデミズムを中心に変わりつつあるように見受けられる。私も最近、Ian Taylor, China’s New Role in Africa(Lynne Rienner, 2009→こちら)、Deborah Brautigam, The Dragon’s Gift: The Real Story of China in Africa(Oxford University Press, 2009→こちら)、Sarah Raine, China’s African Challenges(Routledge, 2009→こちら)といった本を読んだが、いずれも過剰な中国バッシングを戒めている。
グラミン銀行が開発したマイクロファイナンスの活用については誰しも賛成できるだろう。アフリカでの具体的な応用例は、例えばJacqueline Novogratz, The Blue Sweater: Bridging the Gap between Rich and Poor in an Interconnected World(Rodale, 2009→こちら。邦訳は『ブルー・セーター』英治出版、2010年)を読んで欲しい。
監訳者解説によると本書はウィリアム・イースタリーの立場に近いと指摘されている。『エコノミスト 南の貧困と闘う』や『傲慢な援助』は気になりつつも未読なので今度機会を見つけて読んでみよう。
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