金賛汀『朝鮮総連』『将軍様の錬金術──朝銀破綻と総連ダークマネー』、朴斗鎮『朝鮮総連──その虚像と実像』
金賛汀『朝鮮総連』(新潮新書、2004年)、朴斗鎮『朝鮮総連──その虚像と実像』(中公新書ラクレ、2008年)は、共に著者自身がかつて朝鮮総連内部にいて感じた疑問をもとにその問題点を指摘する。本来、日本社会におけるマイノリティーとして弱い立場にあった在日朝鮮人の権利擁護のための組織であったにもかかわらず、北朝鮮で金日成独裁体制が確立するのに伴って総連自体も同様に非民主的な政治工作機関へと変質、総連加盟者の権利を守るどころか、逆に彼らの忠誠心を利用、搾取していく矛盾へと転落していく経緯が描かれている。在日の人々の定住志向に対して朝鮮総連は本国政府との結びつきだけで活動方針を決めてしまうズレによって、民族的アイデンティティーを保持しながら日本社会と共生していこうという在日の人々の要望に応えられなくなっている問題が指摘される。
北朝鮮帰還事業で、出迎えた北朝鮮側と裕福な身なりをした帰国者との双方に大きな驚きにがあったこと、双方の思惑のすれ違いついて今ではよく知られている。このとき、北朝鮮は在日朝鮮人の経済的利用価値を見出し、愛国事業という名分で朝鮮総連を通して帰国者のさらなる掘り起こしや、すでに帰国した人を「人質」にしてまだ日本にいる親族へ献金を強要するなどの圧力を加えてきた。金賛汀『将軍様の錬金術──朝銀破綻と総連ダークマネー』(新潮新書、2009年)は、そうした具体例として朝銀が朝鮮総連を通して圧力のもと北朝鮮への集金マシンへと変貌していく経緯を描いている。もともと、日本の一般銀行から融資を受けられない在日朝鮮人の零細事業者にとって朝銀は不可欠な金融機関であり、生活習慣を熟知しているので柔軟なフォローもしてくれた。ところが、北朝鮮経済の破綻から集金圧力が強まる中、朝鮮総連関連の事業(パチンコ店直営、不動産投機)に不透明な形で膨大な融資を行い、健全経営を目指して拒んだ地方の朝銀理事長などは辞任を余儀なくされた。行き先の不明の金額は、当然ながら北朝鮮に渡ったことが推察される。こうした矛盾がバブル崩壊を契機に顕在化して破綻、公的資金導入によって朝鮮総連との関係は完全に絶たれる。北朝鮮は有力な金づるを失ったわけだが、何よりも困惑したのはこうした動きの埒外にあった一般の在日の事業者である。
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