黄富三『女工と台湾工業化』
黄富三(石田浩監訳)『女工と台湾工業化』(交流協会、2006年)
・戦後台湾の経済発展の背景として、労働力として支えた女性たちの社会的背景を分析した論文。原著刊行は1977年だから、もう30年前の話。現代の問題ではなく、調査データが多数収録されているので台湾社会経済史の史料としての意味合いの方が強いようだ。
・紡績業は日本統治期には微々たるもので日本からの輸入に依存→戦後、日本との経済関係が断絶した上、国民党政権と共に多数の大陸出身者が流入して、衣料品の不足→繊維工業の発展が急務とされた。また、戦後の経済建設において電子工業も急速に発展→男子労働力だけでは不足→女子労働力も動員の必要。
・女工を雇用する側の要因:男子労働者よりも低廉な賃金。軽工業は技術習得が容易→女性は結婚退職があるので労働力の新陳代謝がきき、安い賃金を維持できた。女性は単純労働にも我慢してくれた。労働争議の心配がなくて管理がしやすいと判断された。女性には兵役義務がない(兵役で召集された場合、そのポストを維持することが法律で義務付けられていた)。
・女工側の働く要因:農村経済は低収入であるため家計を補助する必要。女性の自立が可能。広い社会を見てみたいという気持ち。
・女工という形で経済社会へ女性が進出→自前の経済力を持ったので消費市場の拡大にも寄与した。
・男性よりも低い賃金、それを正当化する形で責任ある仕事を任せてもらえない。その背景には教育機会の不均等などの問題があったことも指摘される。
・読みながら、「金の卵」が東京を目指した頃の日本とか、逆に近年の中国沿岸部工場地帯の労働環境なども思い起こした。後者についてはLeslie T. Chang, Factory Girls: From Village to City in a Changing China (Spiegel & Grau, 2009、邦訳は『現代中国女工哀史』白水社、2010年)が興味深かった(→こちら)。
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