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2010年8月 5日 (木)

【映画】「練習曲」

「練習曲」

 大学卒業を間近に控えて台湾一周の自転車旅行に出かけた青年(東明相:イーストン・ドン)。難聴の障害を抱えた彼だが、重そうに背負った荷物の中にギターがある。いざ弾こうと思ったとき、弦が切れてしまっていた。「壊れてたって、好きなように弾けばいいんだ」と声をかけられるシーンがあった。ハンディがあっても、壁にぶつかっても、自分なりの切り抜け方があるはずだという意味合いが込められているのか。道中に出会った人たちから励まされ、助けられながらペダルをこぎ続けていく中で、自らの人生を見つめなおしていくロード・ムービー。

 通り過ぎる風景の何気ない一瞬、一瞬が丁寧に写し撮られていく映像が実に穏やかで、心なごむように美しい。南国の穏やかさが、道中のたまたまの出会いや人情と静かにうまく溶け込んでいるので、観ながら、青年の胸中にわきおける気持ちに自然と感情移入していける。

 家に泊めてくれた青年の母親への反抗。ローカル駅で出会ったリトアニア人女性。退任間際の小学校の先生から聞いた生徒の障害児の話。工場主が中国進出して失業したため抗議活動中のにぎやかなおばさんたち。一緒に落書きして逃げたアーティスト。お互い様だと言って自転車を直してくれた同様にツーリング中の先達の話。そして、青年の障害を気遣う祖父と共に出席する祭礼(この人は最近観た「トロッコ」にも出てきたおじいさんだ)。何らかの寓意を読み取れそうなエピソードが映画のあちこちに散りばめられているが、それを並べて書き立てても野暮というものだろう。

 一つだけ言うと、台湾アイデンティティーの複合性が、ちょっとしたニュアンス程度のものにしても、映画の背景に込められているのが見えてくるところに関心を持った。日本の植民地統治期における「サヨンの鐘」(莎韻之鐘)の話が紹介されたり、大陸出身の人形作りの老人の話に耳を傾けたり。特に論評を加えることもなく淡々と映画の中に組み込まれている。そういった何やかやも、青年自身の葛藤も、すべてがこの台湾の美しい風土の中に包み込まれている。

 難しいことなど考えず、ただこの穏やかで美しい風景の中に青年と一緒に迷い込み、一つ一つの縁に身を委ねるだけでいいのかもしれない。鑑賞後に余韻の残る、なかなか良い映画だった。監督の陳懐恩は侯孝賢映画で撮影監督をしていた人らしい。

【データ】
原題:練習曲/英題:Island Etude
監督・脚本・撮影:陳懐恩(チェン・ホァイエン)
2007年/台湾/108分
(DVDにて)

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