武田善憲『ロシアの論理──復活した大国は何を目指すか』
武田善憲『ロシアの論理──復活した大国は何を目指すか』中公新書、2010年
ロシア政治と言えば、国内的にはプーチンの権威主義的独裁、対外的には「新冷戦」や資源外交による恫喝が騒がれて印象はあまりよろしくない。対して本書は、良い悪いの価値判断は別としてプーチンの強力なリーダーシップは必ずしも恣意的な独裁を意味するのではなく、むしろその下で形成されている「ゲームのルール」を読み解くことを趣旨とする。
国民生活の安定と向上にこそプーチンへの支持の源泉があり、国家の発展という目標がすべてのルールの基準となる。とりわけホドルコフスキーが逮捕されたユコス事件では、「正しく納税せよ」「政治に野心を抱くな」「ビジネスに専念せよ」「国家の発展に寄与せよ」といったルールが明確になった。欧米では自由経済に対する弾圧と受け止める向きもあったが、逆に言えばプーチンのルールに従う限りビジネスの自由はあるとも言える。大国としての地位は目標ではあっても、かつて超大国として世界を二分したソ連時代へと戻るわけにはいかないことは認識されており、旧ソ連諸国への影響力は残しつつ、他方で国際政治では多極主義という枠組みでプラグマティックな対応が選択されている。
自分たちとは異なるロジックに基づいて行動する相手といかに交渉するかが外交である。その点で、価値判断はいったん保留した上で、表面的な印象論には左右されないように相手側の内在的ロジックを見極めようとする本書のアプローチは説得力を持つ。
| 固定リンク
「国際関係論・海外事情」カテゴリの記事
- ニーアル・ファーガソン『帝国』(2023.05.19)
- ジェームズ・ファーガソン『反政治機械──レソトにおける「開発」・脱政治化・官僚支配』(2021.09.15)
- 【メモ】荒野泰典『近世日本と東アジア』(2020.04.26)
- D・コーエン/戸谷由麻『東京裁判「神話」の解体──パル、レーリンク、ウェブ三判事の相克』(2019.02.06)
- 下斗米伸夫『プーチンはアジアをめざす──激変する国際政治』(2014.12.14)
「ロシア・コーカサス・中央アジア」カテゴリの記事
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:一日目】井上靖『敦煌』(2020.05.22)
- チャイナ・ミエヴィル『オクトーバー──物語ロシア革命』(2018.02.20)
- 【映画】「花咲くころ」(2018.02.15)
- 下斗米伸夫『プーチンはアジアをめざす──激変する国際政治』(2014.12.14)
- 横手慎二『スターリン──「非道の独裁者」の実像』(2014.10.12)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント