【映画】「瞳の奥の秘密」
「瞳の奥の秘密」
裁判所書記官の仕事を定年退職したエスポシトは小説を書こうと筆を執った。想起されるのは25年前、ブエノスアイレスで新婚の若妻が惨殺された事件。残された夫の犯人逮捕への熱意に心を打たれた彼はトラブル続きでも捜査を再開した。そうした中で目にとまった被害者の若い頃の写真、そこに映っていたある男の情欲のこもった眼差しがどうしてもひっかかる。これを見て得た確信をきっかけに犯人逮捕へと結び付けた。ところが、ある日、ニュースを見て驚く。終身刑になったはずの犯人が、あろうことが大統領(おそらく、エヴァ・ペロン)の傍らに警護役として立っているではないか。そして、信頼していた部下のパブロは自分の身代わりに何者かによって殺害されてしまった。司法をめぐる政治の暗い闇──。事件に関連してもう一つ思い出されるのは、美貌の上司イレーネの存在。エスポシトは自らの想いを胸に秘めているつもりでも、その気持ちを雄弁に語ってしまう彼の眼差しにイレーネも気付いていた。しかし、大卒エリートのイレーネと高卒ノンキャリの彼との間には高い壁が立ちはだかっていた。時を経て再会した二人、エスポシトは追憶を込めた原稿をイレーネに見せる。
基本はサスペンス映画ではあるが、むしろそれを換骨奪胎して、時を経ても人の気持ちの中にいつまでも引きずられ続けている追憶というテーマが前面に出てきている。過去の思い出が現在でも生き続けているのか、過去の呪縛から離れられないのか、どのように捉えるかは人それぞれだろうが、そこに一つの決着をつけようというのがエスポシトが小説を書く動機である。飲んだくれだが信頼できるパブロの憎めないキャラクターがストーリー展開の潤滑油として良い味を出している。1970年代のレトロスペクティヴな光景を再現、そこにかぶさる叙情的なメロディー、そうした中から抑え気味だが感傷的な情感が静かに浮かび上がってくる。見ごたえ十分な映画だ。
【データ】
原題:El SECRERO DESUS OJOS
監督:ファン・ホセ・カンパネラ
2009年/スペイン・アルゼンチン/129分
(2010年8月29日、TOHOシネマズ・シャンテ)
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