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2010年7月22日 (木)

片倉佳史『台湾鉄路と日本人──線路に刻まれた日本の軌跡』、宮脇俊三『台湾鉄路千公里』

 片倉佳史『台湾鉄路と日本人──線路に刻まれた日本の軌跡』(交通新聞社新書、2010年)は、台湾鉄路の路線一つ一つの建設過程を取り上げて、鉄道という観点から台湾史をたどっていく。本書は図版や当時の写真を豊富に収録、新書サイズでありながら情報量は充実していてお買い得感あり。口絵の地図を眺めると、日本統治期には平野部を中心に私設鉄道も張り巡らされていたのが意外に感じる。製糖会社の運搬用路線だから貨物優先で、ついでに旅客運輸も行っていた。モータリゼーションの進展でこうした路線は廃線されていったのだという。

 台湾鉄路の大半は日本統治期に基盤が作られており、台湾鉄道史を振り返ることは同時に当時の日本技術史を垣間見ることにもつながる。ただし、最初に鉄道を敷設したのは清朝の洋務派官僚・劉銘伝であるが、財政難や労働事情の困難、さらには鉄道に対する地元民の迷信的反感などの理由で中途で挫折してしまった。地元民の反感を押し切って鉄道敷設が可能となったのは、日本の台湾総督府が強権を振るったからである。

 話が少々脱線してしまうが、台湾史を考える上で鉄道敷設が持った重要な意義は、全島レベルで張り巡らされた鉄道網によって物流面において台湾が一つの経済単位にまとめ上げられたことである。それは現在にも続く一つの台湾意識、すなわち台湾アイデンティティ、台湾ナショナリズムの芽生えにつながった点で、日本統治期における鉄道網整備は実は無視できない要因なのである。

 台湾鉄路つながりでもう1冊。宮脇俊三『台湾鉄路千公里』(角川書店、1980年)。宮脇が台湾を旅したのは1980年6月。付録の地図を見ると、枋寮~台東間が未開通である。鉄橋ごとに警備兵がいるという物々しさにはまだ戒厳令下にあった時代をしのばせる。

 元祖“テツ”たる宮脇の目的はあくまでも鉄道全線踏破であって、台湾という土地柄そのものへの関心はあまりない。だから、日本人の台湾シンパにありがちな「日本は植民地で良いこともした」的論調とはそもそも次元が異なる。他方で、台湾事情への無知に由来するチグハグな言動も目立つが、それも見方を変えれば興味深い。

 日本語を話すのは35年ぶりだ、と言う親切な駅員さんに出会ったりする。それから、憲兵隊を除隊してタクシーを開業したという運転手さん。宮脇が「戦前世代でもないのに、どうしてそんなに日本語がうまいのか?」と尋ねても彼は話をそらしてしまう。宮脇は不思議そうに首をかしげるが、ひょっとしたら両親が日本びいきで、それがばれるのを恐れているのかもしれない。あるいは、白団出身だったりして。また、台東近くで隣に座った原住民系のおじさんが降車時に「サヨナラ」と声をかけてきた。宮脇が「再見」と返すと、彼は固い声音で「アナタ、北京ニ行ッタコト、アルノデスカ」。ないけど…と言いよどむ宮脇に彼は背を向けて再び「サヨナラ!」 戦後、国民党政権の中国語化政策によって、戦前世代の日本語話者は肩身の狭い立場に置かれていた。繰り返すが、宮脇が旅をしたのは1980年である。現在から振り返れば蒋経国がそろそろ本土化へと方向転換を模索していた頃だと分かるが、当時の台湾一般社会では戒厳令がいつまで続くのか分からない、そうした一種の恐怖感を引きずっていた時代である。

 そういえば、台湾鉄道つながりで、西川満『台湾縦貫鉄道』を読んでみたいと前から思っているのだが、未入手である。以前、台南の台湾文学館に行ったとき、この作品をテーマにした一画があったのを思い出した。ここにも、台湾アイデンティティと鉄道というテーマを読み取ることが可能である。

 来月、また台湾に行くつもり。行き帰りの飛行機だけは押さえてある。在来線幹線のうち新竹~台南間、枋寮~花蓮間はまだ乗ったことがないから、今回は台湾鉄道一周の旅としよう。調べてみたら、支線や阿里山鉄道などは改修工事や台風被害復旧などで運休路線が多いのが残念。

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