ハリー・ハルトゥーニアン『歴史と記憶の抗争──「戦後日本」の現在』
ハリー・ハルトゥーニアン(カツヒコ・マリアノ・エンドウ編訳)『歴史と記憶の抗争──「戦後日本」の現在』(みすず書房、2010年)
・戦後日本をテーマとした論文集。戦後日本を枠付ける思想空間を分析しているが、そこに影を落とす戦争、天皇、日米関係といったモチーフの比重が大きい。
・第1論文「あいまいなシルエット:イデオロギー、知、そして米国における日本学の形成」は、ジャパノロジーという学知的枠組みそのものにはらまれた制度的権力性を分析しており、一つの切り口として興味深く読んだ。宣教師や軍隊出身の第一世代ジャパノロジストが設立した閉鎖的空間→近代化論→戦後アメリカの同盟国にふさわしい「近代化に成功した非西欧国」という物語を形成。眼差しの非対称性によって研究対象に一方的なレッテル貼りをしたと捉える点ではエドワード・サイード『オリエンタリズム』やポール・コーエン『知の帝国主義』なども思い浮かべたが、ジャパノロジーの場合、アメリカ基準による「お手本」として持ち上げたところが異なるようだ。
・第5論文「見える言説、見えないイデオロギー」では「近代の超克論」と高度経済成長後の文化政策とを比較する論点に関心を持った。
・私とは議論の体質が異なるせいか、読んでいて中に入り込みづらかった。批判口調の激しさも一因か。右翼、保守派、ファシストといった表現が結構安易に使われているのも私には気になる(例えば、神話的共同体主義という点で神話学者の「隠れファシスト」ミルチヤ・エリアーデと「農本ファシスト」橘孝三郎とは同じ立場だ、という言い方をする箇所があり、逆にこの二人をどういう観点で結び付けているのだろう?と別の意味で興味を持ったりもした)。ハルトゥーニアン『近代による超克』(岩波書店)も翻訳が出ているからいずれ読むつもりではいるが、ちょっと気が重い。
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