【映画】「闇の列車、光の旅」
「闇の列車、光の旅」
国境を越えてアメリカを目指す中南米の移民たち。隣国メキシコばかりでなく、ホンジュラス、グァテマラなどからもメキシコを通って陸路をたどる人々が多いらしい。父、叔父と一緒にアメリカへ行く途中のサイラ。「組織」を裏切って追われる身となったカスペル。移民のあふれかえる列車の屋根の上である事件をきっかけに出会った二人は、共にアメリカ国境の川までたどり着くのだが…。
夜中、光を放つ列車が轟々たる音を響かせて駅へと到着する厳かなシーン。列車の屋根から見晴るかす沿線の牧歌的風景。山上にマリア像が見えると人々は居ずまいを正して十字を切る。時に詩情さえ感じさせる映像的美しさの一方で、彼ら移民たちがたどらざるを得ない「冒険」は文字通り命がけだ。しかも、旅路の果てにも厳しい生活が待っていることを冷静に知っている。残っても、進んでも、どちらであっても希望はない。ならば、取りあえず行くしかない──。
絶対的貧困のため生きていく術のない人々。助け合って生きていかねばならないが、そのための寄り合いとして一つは家族。もう一つはカスペルが所属していたようなマフィア組織。ただしそれは、排他的暴力性と表裏一体をなす団結心である。人的ネットワークという点でも貧困と暴力とが織り成している負の連鎖。新天地に放り出されたサイラは果たして新しい家族を見つけ出すことができるのか。投げやりになってもおかしくないつらさ、その中にあっても二人がかわす眼差しのひたむきさが美しい。
【データ】
原題:Sin Nombre(名無し)
監督・脚本:キャリー・ジョージ・フクナガ
2009年/アメリカ・メキシコ/96分
(2010年7月3日、日比谷・TOHOシネマズ・シャンテにて)
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