フリードリヒ・マイネッケ『ドイツの悲劇』
フリードリヒ・マイネッケ(矢田俊隆訳)『ドイツの悲劇』(中公文庫、1974年)
・1946年、敗戦後の混乱のただ中にあったドイツ、すでに齢八十を越えた老歴史家マイネッケがドイツ現代史を振り返り、その痛恨の反省を通して次なる時代への指針を示そうとした書。大衆社会批判が基調。
・「近代の文化と文明に浴している人間にとっての重大な問題は、精神生活における合理的な力と非合理的な力のあいだの健全な、自然な、そして調和的な関係である。なぜなら、まさにこの近代の文化と文明こそ、それのもつ特性によって、この均衡を脅かしているからである。」(62ページ)
・知性乏しき専門分化。「…大学でりっぱな専門教育をうけてきた技術家、技師等々は、十年ないし十五年間は自己の職業にまったく献身的に専念し、脇目もふらずにひたすら有能な専門家になろうとする場合が、現在非常に多い。やがてしかし、三十代の中ごろないし終わりころになると、かれらが以前にはけっして知らなかったあるもの、かれらが職業教育をうけたさいにもかれらにはまったく近づかなかったもの──おさえつけられた形而上学的要求と呼んでもよいもの──が、かれらのなかで目をさます。そしていまやかれらは、なにかある特殊な精神的な仕事に、すなわち、国民のあるいは個人の幸福にとってとくに重要であると自分には思われるところの、ちょうど流行しているなにかある事柄に──それは禁酒論でも、土地改革でも、優生学でも、神秘学でもよい──はげしい食欲をもって身を投ずる。そのとき、従来の分別ある専門家は、一種の予言者に、熱狂家に、あるいはそれどころか狂信家や偏執狂に変化する。」「ここにわれわれは、知性の一面的な訓練は、しばしば分業的な技術に導くこと、またかえりみられなかった非合理的な心の衝動にとつぜん反作用をおこさせるおそれがあること、だがしかし、批判的な規律や創造的な内面性をそなえた真の調和をもたらすのではなく、いまや荒々しくかつ際限なく広がるあらたな一面性に導くことを、知るのである。」(65~66ページ)
・ヒトラー的人間性の転位は「合理的な力と非合理的な力のあいだの心的均衡の狂いとしてとらえることもできる。一方では計算する知性が、他方では権力、富、安全等々にたいする形而下的な欲求が、過度に押し出され、行動する意志は、そのために危険な領域に追いやられた。技術的に算出されつくられるものは、それが権力と富をもたらす場合には、正当と認められるように思われた。──いやそれどころか、それが自民族に役立つ場合には、倫理的にも正当であるようにも思われた。」(88ページ)
・旧体制における国家理性やマキャヴェリズムは少数者の貴族的な秘密に守られていた。ところが、現代において政治はもはや少数者のものではない。「ヒトラー的人間性のなかのマキアヴェリ的、無道徳的な要素は、どこまでもヒトラー的人間性だけに限られていたわけではなく、西洋が、没落にせよ変形にせよ、とにかく新しい生活形態に移ってゆく巨大な過程にみられる、一般的な酵素の一つでもあったのである」(91ページ)→大衆マキャヴェリズム。
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