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2010年7月 3日 (土)

前嶋信次『玄奘三蔵──史実西遊記』、前田耕作『玄奘三蔵、シルクロードを行く』

 前嶋信次『玄奘三蔵──史実西遊記』(岩波新書、1952年)は高校生のときに読んでちょっとなつかしい本だ。主に『大唐西域記』の記述を踏まえ、東に大唐帝国、西にイスラム、南のインドは一時期ハルシャヴァルダナが登場したもののやがて分裂状態、北には遊牧民族、こうした各勢力の狭間にあった中央アジアを行く玄奘の旅路を語る。その頃、水谷真成訳『大唐西域記』も一応目を通そうとはしたが、さすがに基礎知識のない高校生には退屈だったので、私は前嶋書で玄奘の旅路をたどった。

 各地の文化・習俗を観察する玄奘の筆致(というよりも、帰国後の記録だから記憶)はマメで、『大唐西域記』の史料的価値は高い。前嶋書が文献史学的なのに対して、前田耕作『玄奘三蔵、シルクロードを行く』(岩波新書、2010年)はその後の考古学・言語学的研究の進展も合わせて活用しながら玄奘の旅路を再現してくれる。遺跡等の物的証拠と照らし合わせてみて玄奘の記録の細やかさ、正確さが改めてクローズアップされる。

 玄奘は三蔵法師として『西遊記』に登場するように、彼の求法の旅が直面した艱難の一つ一つには、イマジネーションを膨らませようという気持ちがかき立てられるような、胸がワクワクするような魅力がある。後世の学者による研究も、一見、方法論的には地味な実証作業の繰り返しではあっても、その再現を目指す語りそのものがイマジネーションの産物である。もちろん、でっち上げという意味ではない。この不思議な魅力に心がつかまれて、玄奘の歩いた光景を自分なりの方法で語りたい、そうした動機としてのロマンティシズムに触れて共感していけるところに、このような歴史書を読む醍醐味を感じる。

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