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2010年7月 9日 (金)

岩井克人・佐藤孝弘『M&A国富論──「良い会社買収」とはどういうことか』

岩井克人・佐藤孝弘『M&A国富論──「良い会社買収」とはどういうことか』(プレジデント社、2008年)

・岩井克人を座長とする東京財団の研究グループによるM&Aルールの提言。会社=法人をヒト+モノという二段構えで把握する岩井の理論が前提。この理論の詳細は、岩井克人『会社はこれからどうなるのか』(平凡社ライブラリー、2009年)、『会社はだれのものか』(平凡社、2005年)、さらに基礎理論的なものとしては『貨幣論』(ちくま学芸文庫、1998年)や三浦雅士によるインタビュー『資本主義から市民主義へ』(新書館、2006年)を参照のこと。
・株主がモノとしての会社を所有→2階。ヒトとしての会社が会社財産(物的財産+人的組織)を所有→1階。前者の2階を強調するのがアメリカ的な株主主権論、後者の1階を強調したのが日本型経営。会社が付加価値を生み出すのは1階部分であり、その能力をいかに活用するかという問題意識。
・岩井の資本主義分析の基本は、差異が利潤を生み出すという命題にある。これまでの産業資本主義で会社は設備投資や労働者動員(低廉な労働予備軍としての農村余剰人口が前提)によって差異を作り出してきており、買収対象は機械制工場であった。しかし、現在のポスト産業資本主義では差異そのものを意識的に作り出す必要→作り出すのはヒトの頭脳であり、人的チームワークが必要→ヒトはカネだけでは左右できない→この人的組織の経営の良し悪しを判断基準として、会社買収の具体的なルールが検討される。

・本書の内容からは外れるが、岩井の著作を一通り読んだ印象として(『不均衡動学の理論』だけは未読。資本主義を外在的根拠から批判するのではなく、資本主義そのものが持つ内在的ロジックを徹底させたときに見えてくる不安定さを分析しているらしい)、現在はポスト資本主義なのではなく、資本主義の構造的ロジックが一層強まった時代として連続性の中で捉えている視野に関心あり。つまり、差異が利潤を生むという原理によって駆動されたシステムとして資本主義を捉え、商業資本主義(地理的な差異→遠隔地貿易、重商主義)⇒産業資本主義(大量生産方式の効率性における差異)⇒ポスト産業資本主義(差異を意図的に作り出す→頭脳を用いるヒトが主役)という連続性。社会学でも現在はポストモダンなのではなく、モダンがより強化された時代なのだという議論がある。岩井の言う産業資本主義⇒ポスト産業資本主義という区分は、アンソニー・ギデンズの言う前期近代⇒後期近代、ジグムント・バウマンの言うソリッド・モダニティ⇒リキッド・モダニティにそれぞれ相応するだろうか。私自身の思考が整理されていないのであくまでも思いつきだが、このあたりに関心あり。それから、差異が利潤を生み出すという資本主義のロジックが純化された形で表われたポスト産業資本主義として現代を捉える岩井克人の視点は、ジグムント・バウマンが言うところのリキッド・モダニティを想起させる。

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