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2010年7月28日 (水)

若林正丈編『ポスト民主化期の台湾政治──陳水扁政権の8年』

若林正丈編『ポスト民主化期の台湾政治──陳水扁政権の8年』(アジア経済研究所、2010年)

・国民党からの政権交代を実現させた陳水扁の民進党政権。彼の総統当選そのものが台湾民主化の成果とも言える一方で、立法院では少数派であるため政権運営の困難が予想された。多数派形成・再選戦術として台湾ナショナリズムを煽って藍・緑対立を激化させたことや政権後半期の汚職疑惑などネガティブな印象も強い。今となっては評判よろしからぬ陳水扁政権だが、その失敗について本書は台湾政治の構造的な問題として捉えていく。
・序章「李登輝が残したコンテキスト:ポスト民主化期の「憲政改革」」(若林正丈):民主化への移行は李登輝政権期に終了、ポスト民主化期としての陳水扁政権に残された課題として、「中国憲法」なのか「台湾憲法」なのかという二面性、黒金政治、半大統領制→分割政府(総統・行政院と立法院とのねじれ)の可能性、中台関係の「二国論」などを指摘。
・第1章「陳水扁の政権運営」(小笠原欣幸):陳水扁政権の行き詰まりの背景を分析。①行政と議会とでねじれが生ずる可能性への対処方法がない制度的要因、②党内抗争の激しさや政策立案能力の弱さという民進党の問題、③陳水扁個人のストロングマン志向。これらは事前に予想されていた問題ではあるが、それ以上に地域派閥や人治的要素など台湾土着政治の構造的問題点がある。
・第2章「金権政治の再編と政治腐敗」(松本充豊):台湾の選挙を観察する際に前提となるのは、国民党と民進党との圧倒的な資金格差。財政難の民進党の中にあって、陳水扁は著名な政治スターとして集金力があった→資金を他候補に分配して影響力拡大→他方で金集めのためインフォーマルな手法もとらざるを得なかった。民進党は金融機関との癒着がなかったため金融制度改革に熱心だったが、それは国民党の集金源を絶つという政治目的も動機であった。
・第3章「国民党の政権奪回:馬英九とその選挙戦略」(松本充豊):国民党は野党時代に態勢立て直しに成功→馬英九を総統候補に擁立→中間派選挙民にアピールできた。それは台湾アイデンティティへの接近という形をとった。他方で民進党の謝長廷も穏健路線→中間派取り込みを目指して国民党・民進党共に中道へ。ところが、民進党では陳水扁が強硬路線を打ち出して穏健派の謝長廷の存在感が埋没、中間派も離反して敗因につながった。
・第4章「台湾における多文化主義政治と運動」(張茂桂):民進党政権で原住民、客家の文化的保護政策が進んだ一方で、藍緑対立を煽ったことで外省人との社会的亀裂を生じさせた側面。また、外国人労働者への差別が多文化主義政策の新たな課題として浮上。
・第5章「ポスト民主化期における租税の政治経済学」(佐藤幸人):政界と財界は結びつく傾向があり、それを批判するはずの労働勢力は台湾では弱い。租税政策の形成過程を検討し、財界に対するカウンターパワーとして学者など専門家のプロフェッショナリズムが有効な役割を果したことを指摘。
・第6章「「選挙上手」はどの政党だったのか?:台湾立法院選挙集票構造の分析」(若畑省二):かつての中選挙区制では国民党は候補乱立、スキをぬって民進党候補が当選するケースが目立った。民進党はかつて地域別に得票率にばらつき→近年は全国化の傾向あり。現在の小選挙区制→地域事情よりも、全国的に均質な政党対立構図がこれから中心になるだろう。
・第7章「改善の「機会」は存在したか?:中台対立の構造変化」(松田康博):中国側は民進党政権長期化という見通しを持たず→陳水扁の「融和的政策」に応ずる可能性は最初からなかった。胡錦濤政権の対台湾政策がマキシマリスト・アプローチからミニマリスト・アプローチへと変化→これは陳水扁政権が中道路線から独立路線へと転換したことが誘因となっていた。
・第8章「「最良の関係」から「相互不信」へ:米台関係の激変」(松田康博):陳水扁は選挙戦略として独立志向を強調→米中関係安定を望むアメリカの戦略的利害に反する。他方で、アメリカからの混乱したメッセージを陳水扁政権は利用。アメリカは対中関係を考慮して台湾独立志向を抑え込もうと意図するが、他方で台湾が劣勢に立たされたらテコ入れを図る。アメリカは現状維持を軸として中台間のバランサー的な役割か。
・第9章「国際空間の拡大?:「実体」としての国際参加」(竹内孝之):台湾の国際機関参加の問題を概観。

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