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2010年6月16日 (水)

坂部晶子『「満洲」経験の社会学──植民地の記憶のかたち』、玉野井麻利子編『満洲──交錯する歴史』

 坂部晶子『「満洲」経験の社会学──植民地の記憶のかたち』(世界思想社、2008年)は、「満洲」体験そのものよりも、その語られ方の分析を通して、ナショナル・ヒストリーへと包摂されたり、あるいは距離をとろうとしたり、いずれにしても記憶の語りがマスター・ナラティヴと絡まりあって再解釈されるときのメカニズムを描き出す。植民地主義的な旧満洲国の「建国理念」から距離を置くにしても、日本の場合には脱政治的なノスタルジー、対して中国の場合には抗日という形でそれぞれ別個の言説空間が成り立った。それを対立としてしまうのではない。本来、個人の語りとは決して一点には収斂できない多元的なものであって、硬い規範的枠組みをくぐり抜けてふと姿を見せる生の声を何とか聞き取りたいという模索が行間から浮かび上がっていて、とても良い本だと思った。

 玉野井麻利子編(山本武利監訳)『満洲──交錯する歴史』(藤原書店、2008年)は、“満洲”における出身背景の異なる人々に焦点を合わせた論文集。中国東北地方出身のジャーナリスト杜重运の抗日論説は他の地域の中国人にどのように受け止められたのか。白紙と見立てた満洲に実施されたユートピア的都市計画の国際比較。川島芳子の複雑なアイデンティティ。映画の中の“日満親善”ロジック。満洲のポーランド人。森崎湊を通して見た汎アジア主義。ソクジョン・ハン「植民者を模倣する人々:満洲国から韓国への統制国家の遺産」は、儀式、体操、イデオロギーなどの検討により、旧満洲国における様々な体験が戦後の南北朝鮮における国家形成に影響を及ぼしたことが指摘される。最近刊行された姜尚中・玄武岩『興亡の世界史18 大日本・満州帝国の遺産』(講談社、2010年)のテーマもこのあたりにある。

 なお、Mariko Asano Tamanoi, Memory Maps: The State and Manchuria in Postwar Japan, University of Hawai’i Press, 2009を取り寄せて手もとにあるが、未読。

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