金雄白『同生共死の実体──汪兆銘の悲劇』
金雄白(池田篤紀訳)『同生共死の実体──汪兆銘の悲劇』(時事通信社、1960年)
原著は香港で刊行。著者は周仏海と懇意にしていたためいわゆる汪兆銘政権(1940年3月30日から1945年8月)に参加したジャーナリスト。汪兆銘工作の発端から戦後の漢奸裁判まで自身の見聞を踏まえて内情をまとめており、読み物的ではあっても事実関係に間違いはないと評価されているようだ。汪兆銘に関する本で言及されるエピソードには本書から採録されているものが多い。国民党脱出組の維新政府組への嫌悪感。重慶政権側との血で血を洗う特務同士のテロ合戦。日本側との様々な駆け引き。国旗問題ではだいぶもめたらしく、日本側は北洋政権期の五色旗を要求、対して国民党としての正統性を主張する周仏海たちは青天白日旗を頑として譲らず、結局、青天白日旗に「和平・反共・建国」というスローガンを縫い付けて重慶政権側と区別するということで妥協。著者は汪兆銘に関して主観的には決して売国奴ではなかったが、国際情勢の判断を誤ったと評価。政権発足後、日本側のごり押しで何事も裏目に出てしまう中、普段は温厚文雅な汪兆銘も苛立ちが隠せず周囲に当り散らしていたという。
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