「川の底からこんにちは」
「川の底からこんにちは」
ワケあって東京に出てきて5年目、パッとしない仕事で転職5回目、男にはたびたび捨てられて今のは5人目、子連れの上司、ダメ男。あきらめ、と言うにはあっけらかんとしているが、「しょうがない、あたしなんてどうせ中の下、ダメな女だから」と佐和子(満島ひかり)は口癖のようにつぶやく。ある日、実家でシジミ工場を経営する父が入院し、田舎へ呼び戻された。工場の先行きは暗い。田舎=自然豊か=エコと勘違いしたダメ男もついて来るし、工場で働くおばさんたちの冷たい視線が身にささる。
ゆるい笑い、微妙に毒気の混じったちゃかしが全体的なトーン。佐和子の口癖「しょうがない」、これが映画の前半と後半とでその意味合いを全く対照的なものに転換させているのが鮮やかで目を引いた。東京でOLをしていたときは、つまらない仕事、つまらない男、夢もやりたいことも特にない、というまったりとしたあきらめ。しかし、どん詰まりになって気持ちがふっきれた。会社再建で躍起になっているときの「しょうがない」には、どうせダメなら全部ひっくるめて頑張るしかない、そうした前向きの凛々しさすらうかがえる。
満島ひかりは、最近観た「カケラ」でも印象的だったが、この「川の底からこんにちは」でも主人公の不器用さが自然体として浮かび上がってくる。そのおかげで「しょうがない」の意味合いの転換が説得的に感じられる。とても良い。
【データ】
監督・脚本:石井裕也
2009年/112分
(2010年5月23日、渋谷・ユーロスペースにて)
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