「東南角部屋二階の女」
「東南角部屋二階の女」
季節は秋だろうか、木々の葉は落ち始め、日差しは淡く穏やか。その中にたたずむ年季の入ったアパートには憂愁を帯びた表情を感じさせる。
野上(西島秀俊)は父親が残した借金返済のためアパートを壊して土地を売ろうかと思い悩んでいるが、名義人である祖父(高橋昌也)は黙ったまま肯んじる気配はない。野上が会社を辞めた日にたまたまの縁でこのアパートに転がり込んできた三崎(加瀬亮)と涼子(竹花梓)。祖父の世話をしてくれている藤子(香川京子)。藤子が近所で営む小料理屋の常連(塩見三省)。このアパートの来歴を知る人、知らない青年たち、みんながアパートの行く末を案じ始める。
このアパートで暮らした人々の様々な思い出の積み重ね、そこへの思い入れは単に年寄りのノスタルジーというわけではない。新たに入ってきた青年たちも、この中で織り成されてきた悲喜こもごもの歴史に参与することになる。去って行く者にとっては、アパートの空間によって媒介された想いの堆積と関わりあった経験そのものが、自分を見つめなおし、出発の足がかりともなる。そのように、他人同士ではあっても、世代が異なっても共有される情感。それが映画全体を通じて静かに浮かび上がってきて、地味ではあるけれど私はとても良い映画だと思う。
西島秀俊は贔屓の俳優で、時に見せる苛立ちも、彼の涼しげな表情の中に吸収されると、不機嫌さより繊細さの方が際立ってくる。加瀬亮は真面目に無神経ないまどき青年を好演。
【データ】
監督:池田千尋
脚本:大石三知子
2008年/104分
(DVDにて)
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