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2010年4月25日 (日)

「カケラ」

「カケラ」

 大学の授業が休講となってカフェで時間をつぶしていたハル(満島ひかり)は、突然、見知らぬ女性から声をかけられた。「あなただって街で素敵だなあって思う人とすれ違うことがあるでしょ。私は後悔したくないの。私は声をかけた。そして出会いに変えた」──はっきりした物言いのリコ(中村映里子)にハルは戸惑いながらも興味がひかれる。彼氏とのズルズル、ダラダラの関係に嫌気がさしていたハルはリコと連絡をとった。「友達」ではなく「恋人」同士となった二人。しかしハルは、リコの直截に過ぎる愛情表現に鬱陶しい押し付けがましさも感じ始める。

 レズの話、と言ってしまったら身も蓋もないが、そういう際どいどぎつさは全くない。都電沿線の下町、居酒屋に八百屋、リコの実家であるクリーニング屋、ハルの暮らすアパートの畳敷きの部屋。こういった舞台設定は、ストーリーにやわらかな温もりを添えてくれる。このチョイスは重要だ。もしオシャレでモダンな都市生活だったら、「同性愛のどこが悪い!」と言わんばかりにツンツンしたフェミニズム映画にもなりかねない(それこそクィア理論とか駆使して分析されそうな)。

 この映画の場合、同性愛というはあくまでもネタで、むしろそれを一つのきっかけとして出会った性格の全く異なる二人の女の子が自分に欠けているものをそれぞれ自覚していく、そうした感情的機微をうまく描き出しているところにこの映画の面白さがあるように思った。ストーリーの大枠は原作と共通しているにしても、換骨奪胎されて雰囲気はだいぶ違っている。ハルのどんくさいかわいらしさ、リコのエキセントリックな生真面目さ、対照的な性格を満島ひかりと中村映里子はよく演じている。二人のぎこちなくも感じられる掛け合いのわざとらしくない素直さが良い。セリフとしては表現しづらいモヤモヤした感じが浮かび上がってくる。

【データ】
監督・脚本:安藤モモ子
原作:桜沢エリカ「ラブ・ヴァイブス」(『シーツの隙間/ラブ・ヴァイブス』祥伝社コミック文庫)
出演:満島ひかり、中村映里子、かたせ梨乃、永岡佑、津川雅彦、光石研、根岸季衣、志茂田景樹、他
2009年/107分
(2010年4月24日、渋谷・ユーロスペースにて)

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