「胡同のひまわり」
「胡同のひまわり」
ひまわりが咲く季節に生まれ、向陽と名付けられた少年。文化大革命のとき農村で強制労働に従事していた父が帰ってきたが、初めて会った父とどのように接したらいいのか戸惑う。画家であった父は苛酷な労働環境の中で手をいため、筆を握れなくなっていた。人生が台無しにされたという思いを、息子への期待に注ぐ父。そうした押し付けがましさに反発する向陽。1960年代から現代まで変貌する北京の街並みを背景に親子の葛藤が描かれる。
細かく見ていけば様々なテーマが描きこまれている。例えば、世代間の価値観のギャップ。老後の生きがい。住宅事情。何よりも、文革の傷痕が大きい。文革で密告した隣人は贖罪意識から厚意を示すが、父は拒絶する。自分の画家としての人生はもう取り戻せないという意識は父の態度をかたくなにしてしまっていた。過去を受け容れるには時間がかかる。仲直りしたいと思いつつ果せないまま、隣人は亡くなった。後悔に苛まれる父は息子に、そして自身の新しい人生に改めて向き合おうとする。その表情は何かが吹っ切れたように明るい。
胡同の古い家屋が崩される際につけられた「折」というペンキ印はハスチェロー監督「胡同の理髪師」(→こちら)でも観た覚えがある。その後に林立する高層ビルは味気ない気もする。こうした街並みが崩されゆくたたずまいには、ここで悲喜こもごもの葛藤が織り成されてきた時間の厚みをいっそう強く感じさせて、暮らしたこともない場所なのに感傷的なノスタルジーがかき立てられてくる。
【データ】
原題:向日葵
監督:張楊
2005年/中国/132分
(DVDにて)
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