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2010年4月 4日 (日)

二・二六事件を題材にした小説

 日本現代史の中でも稀有な規模のクーデターであった二・二六事件。イマジネーションをかき立てやすいのか、硬軟様々におびただしい関連文献が量産されてきた状況を現代史家の秦郁彦は「二・二六産業」と呼んだ。以下、二・二六事件を題材とした小説作品でとりあえず思いつくのを適当に挙げていく。それぞれだいぶ以前に読んで再読していないので細かい内容には触れない。

 私自身の記憶として一番早いのは荒俣宏『帝都物語』。中学生のとき読んだ。二・二六事件が出てくるのは第五巻「魔王篇」だったか。「魔王」というのは北一輝のこと。北一輝に注目した作品としては久世光彦『陛下』(中公文庫、2003年)がある。久世作品を読むときは昭和の情景の描き方に興味が行ってしまって具体的なストーリーは忘れてしまったが、文庫版のカバー表紙に転がる目玉がなぜか思い浮かぶ。北の片目は義眼。

 宮部みゆき『蒲生邸事件』(毎日新聞社、1996年)は現代の受験生が事件前夜にタイムトリップ。「歴史ってよく知らない」世代を意識した書き方だ。恩田陸『ねじの回転』(集英社、2002年)はヘンリー・ジェイムズじゃないよ。未来の国際機関が日本の針路の分岐点は二・二六事件だと考えてコントロールしようという思惑が背景。「歴史は変えられるのか」的SFのパターン。山田正紀『マヂック・オペラ』(早川書房、2005年)は、二・二六事件前夜に起こった殺人事件の調査に当たっていた特高が背後の陰謀に気づいていく話。歴史を換骨奪胎して実在の人物を使いながら伝奇小説に仕立てあげようという意図では山田風太郎を意識しているらしい。去年ようやく直木賞を受賞した北村薫『鷺と雪』(文藝春秋、2009年)は個人的には好みに合っている。北村のほんわかやわらかミステリの筆致で二・二六事件につなげられていく。

 この人を挙げないわけにはいかないか。三島由紀夫「憂国」(『花ざかりの森・憂国』新潮文庫、1968年)。二・二六事件の際、新婚の身の上が仲間たちから配慮されて取り残された青年将校が夫婦揃って自刃。描こうとしているのは、至誠=純粋さ、エロス、死の三位一体的結びつきか。どうでもいいが、五・一五事件をメインに据えた作品が少ないのは、首相を殺害はしても、部隊を動員するなど絵になる劇的クライマックスがないからか。三島の『豊饒の海』四部作の第二部『奔馬』は血盟団事件、五・一五事件と続く世相の中、あくまでも純粋な「志」を以てテロリズムへと突っ走る青年が主人公。ちなみに、私はフィリップ・グラスの曲が好きで、彼はアメリカ映画「MISIMA」(日本では未公開)の音楽も担当しており、グラスのサントラ集にある「MISIMA」からの抜粋はこの『奔馬』のシーンだった。このメロディーは好き。五・一五事件では高橋和己『邪宗門』に、青年将校が犬養首相殺害直前「これでいいのか?」と自問自答するシーンがあったのを覚えている。

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