「掌の小説」
「掌の小説」
川端康成が二十代の頃に書いたショート・ショートを集めた『掌の小説』(新潮文庫)、ここから選び取った作品を四人の若手監督が内容をふくらませながら映像化したオムニバス形式の連作映画である。第一話「笑わぬ男」(岸本司監督)、第二話「有難う」(三宅伸行監督)、第三話「日本人アンナ」(坪川拓史監督)、第四話「不死」(高橋雄哉監督)。舞台背景として大正期におけるモダンにもなりきれず泥臭さの残った風景を再現、その中で展開されるストーリーは特に不可思議なことが起こるわけでもないのに、全編を通して幻想性が漂う美しい映像構成で、どの作品も興味深く観た。地味だけど、なかなか良い。
私がとりわけ印象的だったのは、第三話の楽団やチンドン屋が入り混じる中でロシア人少女が歌うシーン、それから第四話の少女(香椎由宇)と老人(奥村公延)が手をつないで歩み去るシーンにかぶさるもの悲しいメロディー。この飄々とのびやかに響くメロディーでそのままエンドクレジットへと流れ込み、良い感じに余韻にひたれると思っていたら、変なポップス調の歌が始まってぶち壊しなのが非常に残念。
私が観に行ったのはちょうど最終日、上映後に監督3人によるトークがあった。第四話の高橋監督が奥村公延への思い入れを語っているのが印象的だった。奥村さんが昨年亡くなられていたのは知らなかった。脇役として頻繁に出演していたので、名前は知らなくても顔は意外と覚えられているのではないか。例えば笹野高史のようないぶし銀的バイプレーヤーという印象があって、最近、笹野さんは注目されているのに対し、奥村さんの存在感は一般にそれほど認知されていないように思う。いずれにしても、残念である。
【データ】
2010年/80分
(2010年4月23日レイトショー、渋谷・ユーロスペースにて)
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