「第9地区」
「第9地区」
南アフリカ、ヨハネスバーク上空に異星からの宇宙船が停止、中から下りてきたエイリアンたちは難民として地上で暮らし始め、スラム化したその区域は「第9地区」と呼ばれた。難民キャンプ収容のための強制排除の委託を受けた多国籍軍需企業MNUは傭兵組織を動員して作戦を発動、このとき業務責任者のヴィカスは正体不明の液体を浴びて体に異変が生じ始めた。エイリアンへと変異し始めた彼は生体解剖される危険を察知、「第9地区」へと逃げ込み、そこで出会ったエイリアンと共に戦い始める。
難民問題が投影されていると話題になっているので観に行った。南アフリカのスラムを舞台にストーリーは展開。SFアクションではあるが、途中、当事者や識者のコメントが挿入されてドキュメンタリー風の構成も取られる。難民問題に実際に関わっている人々にも出演してもらって、その感覚を込めた上でセリフを語らせているらしい。言語や生活習慣の異なる彼らの存在は確かに「未知との遭遇」ではある。
異質者に対する偏見から誘発された暴力。この映画では難民問題ばかりでなく、バイオテクノロジーにおける生命倫理(国境外の発展途上国における臓器売買まで連想を走らせるのは行き過ぎか?)、軍事組織の独断専行、虚偽報道による世論操作など様々なテーマも織り込まれ、それらを一貫したストーリーにまとめ上げている点で完成度は高いと思う。
暴力的排除の対象となった彼らはどのような怨恨を抱えてしまうのだろうか。エイリアンへと変異が始まって追われる身となるヴィカスに焦点を合わせることにより途中で異なる視点へと切り替えが行なわれ、観客は、もし自分が排除される側だったらどう思うか、そうしたイマジネーションが迫られる。ヴィカスの尽力で地球外へ脱出したエイリアンは、3年経ったらお前を助けに来ると約束した。映画中の識者のコメントにもあったが、彼らはどのような形で戻ってくるのか、ひょっとして戦争準備を整えて再来するのか──。異質者への排除がテロなど思わぬ形ではねかえってきてしまう現実世界の不安が重ねあわされていると言えるだろう。
【データ】
監督:ニール・ブロムカンプ
製作:ピーター・ジャクソン
2009年/南アフリカ・アメリカ・ニュージーランド/111分
(2010年4月11日、新宿ピカデリーにて)
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 【映画】「新解釈・三国志」(2020.12.16)
- 【映画】「夕霧花園」(2019.12.24)
- 【映画】「ナチス第三の男」(2019.01.31)
- 【映画】「リバーズ・エッジ」(2018.02.20)
- 【映画】「花咲くころ」(2018.02.15)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント