トーマス・W・シモンズ・Jr.『ユーラシアの新しいフロンティア:若い国、古い社会、開かれた未来』
Thomas W. Simons, Jr., Eurasia’s New Frontiers, Young States, Old Societies, Open Futures, Cornell University Press, 2008
旧ソ連崩壊後に現われたCIS12カ国の現状を概観。カラー・レボルーションの評価について本書は慎重だが、本書刊行後にはグルジアの挑発でロシア軍侵攻を招いたり、ウクライナの大統領選でも結局親ロシア派が当選したりと、やはりどれ一つとして安定した国はない。12カ国の内情はそれぞれ異なるので単純化は禁物だが、clan政治、つまり氏族、党派性、仲間うち中心の政治→権力基盤としての人的ネットワーク保持が権力の目的となること、選挙はあっても市民社会が欠如しているのでエリート間の権力闘争という形を取るなどの問題点がおおまかな傾向として本書では指摘される。端的に言うと、ネイション・ステートが成り立っていないところに問題点が見出される(state-nationalismが欠けている一方で、ethno-nationalismによる紛争の懸念はくすぶっている)。旧ソ連時代の国境線自体が不自然だったため、国家へのロイヤリティーが根付いていないとも言える(近代的な市民社会ではこれが暗黙の前提で、日本や西欧などはこの「国家」という基礎的なインフラから計り知れないほどの恩恵を受けている)。ただし、アフリカの崩壊国家とは異なり、少なくとも旧ソ連時代に一定の政治機構は完備、政治エリート層も存在しているわけだから、これが貴重な出発点とはなり得る。ロシアもかつての帝国主義とは異なって政治目標の追求に軍事的手段ではなく経済的手段に移行しており、かつ国際的な評判を気にせねばならないので周辺国に対してあからさまな行動にも出にくい。情報化社会の進展によりかつてのような閉鎖性も崩れている(ただし、「中央アジアの北朝鮮」と呼ばれたトルクメニスタンのような国もあるが)。西欧型の市民社会を基準にすると困難が大きいが、それぞれの国の内情に合った形で市民社会やナショナル・アイデンティティーの確立へと促していく必要が指摘される。ただし、それは閉鎖的なものではなく、旧ソ連時代からの民族的混住状態をむしろプラスの方向で考えて、相互依存的なものとしていける可能性もある。
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