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2010年3月 5日 (金)

イアン・テイラー『アフリカにおける中国の新しい役割』

Ian Taylor, China’s New Role in Africa, Lynne Rienner, 2009

 中国のアフリカ進出についてジャーナリズムを中心に中国非難の声が高いが、最近、アカデミズムの方では中国の果たしている役割のプラス面・マイナス面の両方を勘案する冷静な研究が増えている。確かに中国の行動には問題も多い。他方で、アフリカ側自身に構造的機能不全があり、欧米の資源獲得活動も中国と同様の構図を示してきたにもかかわらず、その言い訳的なスケープゴートとして中国が俎上に上げられている点も指摘される。

 本書は、アフリカにおける中国の活動、具体的には①石油など資源獲得目的の外交、②「安かろう悪かろう」の中国製品流入がもたらしたインパクト、③中国外交の非干渉主義が独裁国家における人権抑圧を黙認している問題、④アフリカを市場とした武器輸出、⑤近年拡大されつつある中国のPKO参加などのテーマを検討。それぞれ様々に問題含みではあるにしても、中国非難が必ずしもフェアとは言いがたい実情を示そうとする。

 中国政府の権威主義的性格のため、経済活動も政治的に一元化されているようなイメージを抱かれやすい。しかしながら、先日取り上げたDeborah Brautigam, The Dragon’s Gift: The Real Story of China in Africa(Oxford University Press, 2009→こちら)、Sarah Raine, China’s African Challenges(Routledge, 2009→こちら)でも指摘されていたが、改革開放以降の経済自由化の流れの中で、海外進出した中国企業に対する政府のコントロールが実は有効にきいていないことが議論の一番の焦点となる。複数の国有企業が競合しているためそれぞれが自律的に活動を展開。アフリカ進出した中国企業が劣悪な労働待遇、環境問題無視などの軋轢を引き起こしているが、それは他ならぬ中国自身の国内問題でもあり、それが海外に行ってもそのまま露わになっている点ではアフリカ蔑視というのとは次元が異なる。武器輸出は、かつてはイデオロギー的な動機から行なわれていたが、ポスト毛沢東時代に軍需産業は利潤動機で再編され、ニッチな市場を求めてアフリカに進出(それでも欧米やロシアよりシェアは低い)。「安かろう悪かろう」の中国製品は、一方でアフリカの産業競争力を圧迫しているが、他方で低所得層に受け入れられている。アフリカ自身の生産効率性やインフラの悪さ(流通コストがかかる)を再考する必要がある。

 欧米は個人の人権を重視するのに対して中国は国家という集団レベルでの発展を重視するという価値観の相違、また外交上の非干渉主義が結果として独裁国家による人権抑圧を黙認しているという問題はやはり抗弁しがたい。ただし、近年は人権問題による国際的イメージの悪化が自分たちの国益を損ねていることに中国政府自身が気づいており、徐々にではあるが政策方針を修正しつつある。G・J・アイケンベリーは、第一次・第二次世界大戦におけるドイツや革命初期のソ連が既存の国際秩序をひっくり返すことで勢力拡大を狙ったのとは異なり、現在における中国の台頭は既存の国際ルールの枠内にある、したがって必要以上に脅威視すべきではないことを指摘している(G. John Ikenberry“The Rise of China and the Future of the West : Can the Liberal System Survive?” Foreign Affairs, 2008 Jan/Feb)。イデオロギー的な野心をすでに捨てた中国の政治的性格はプラグマティックなもので自分たちに不利だと判断すればルールに適応しようとする柔軟さが想定可能である。いたずらな非難で反発の応酬に陥るよりも、むしろ中国を国際的枠組みへと組み込んでいくよう誘導する必要があるし、アフリカ諸国もこうした実利重視で動く中国相手の交渉でシビアに立ち回ってウィン・ウィン関係に持ち込んでいく賢明さが求められる。

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