フェルナン・ブローデル『歴史入門』
フェルナン・ブローデル(金塚貞文訳)『歴史入門』(中公文庫、2009年)
大著『物質文明・経済・資本主義』の内容をブローデル自身が要約的に語った講演が本書のもと。一般論としての歴史学入門というよりも、アナール派の歴史観入門。マルクス主義に顕著に見られるように発展段階として歴史を捉えるのではなく、人間の歴史的体験が織り成された複数の時間的厚みが空間的にも共時的にも様々に並存、それらの大きなダイナミズムとして歴史を捉え返していこうというところにブローデル史観の画期点。本書が眼目を置くのは資本主義の生成というテーマだが、長期持続としての日常的な生活構造である物質文明がまずあり、その上に早くから交換活動としての市場経済が芽生えていた。ブローデルは市場経済と資本主義とを明確に区別し、市場経済が生成した中でも一定の条件が揃った所で資本主義が繁栄、こうした三層構造として社会経済史を把握していく。
本書やリセの教科書として書かれた『文明の文法』(Ⅰ・Ⅱ、松本雅弘訳、みすず書房、1995・1996年)などを読んでブローデルを読んだ気になっているのだが、『地中海』や『物質文明・経済・資本主義』まではなかなか手が回らない…。
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