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2010年3月16日 (火)

張承志『殉教の中国イスラム──神秘主義教団ジャフリーヤの歴史』『紅衛兵の時代』

 張承志(梅村坦・編訳)『殉教の中国イスラム──神秘主義教団ジャフリーヤの歴史』(亜紀書房、1993年)は、中国イスラムの一つ、ジャフリーヤ派の内面世界に踏み込み、彼らの抵抗と殉教を軸として回族の歴史を再構成する。原著のタイトルは『心霊史』となっているらしい。相次ぐ回民大反乱を、唯物史観的な社会経済の矛盾としてではなく、信仰のあり方から内在的に捉えようとしている。共産党政権下のイデオロギー硬直性がまだ強かった出版時点では稀有な視点と言えるだろうか。

 ジャフリーヤ派はスーフィズム(神との合一を求める内面的志向性)系の新教であり、18世紀に現われた馬明心の教えが、黄土高原の過酷な自然環境にあって貧しく虐げられてきた人々のくじけそうな気持ちをとらえた。清の乾隆帝の時代、馬明心は政府軍によって処刑され、以来、抵抗と殉教が彼らの精神的アイデンティティーとなった。清朝の弾圧による流刑や逃亡によってジャフリーヤ派は新疆・雲南をはじめ中国各地に散らばっていく。

 著者の張承志自身が回族の出身であり、北京生まれのエリート学生ではあったが、文化大革命のとき、理想主義的情熱から底辺の地域や民族に分け入って内モンゴルで牧民として暮らす。その体験を通して精神的彷徨の末、ジャフリーヤ派への関心が芽生えたという。その経緯は自伝的な作品『紅衛兵の時代』(小島晋治・田所竹彦訳、岩波新書、1992年)に記されている。「紅衛兵」という言葉そのものは彼の発案だったらしい。ただし、初期紅衛兵として理想的情熱を抱いていた彼自身からすると、その後の文化大革命の政治的混乱にはだいぶ違和感があったようだ。文革時にエリート紅衛兵に見られた、「良質な」革命家庭出身者>「悪質な」反革命家庭出身者と人間を生まれでカテゴライズする血統主義に対しては強い反感をもらしている。

 紅衛兵体験ものでは、だいぶ昔に陳凱歌(刈間文俊訳)『私の紅衛兵時代──ある映画監督の青春』(講談社現代新書、1990年)を読んだ覚えもある。細かい内容は忘れてしまったが、父親をつるし上げた後悔の念は印象に残っていた。

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