山崎朋子『朝陽門外の虹──崇貞女学校の人びと』
山崎朋子『朝陽門外の虹──崇貞女学校の人びと』(岩波書店、2003年)
北京の朝陽門外、かつてスラム街だった地域に1920年から45年まで日本人クリスチャンの経営する女学校があった。五四運動、盧溝橋事件と日中関係の難しかった時期に設立・運営にあたった清水安三と彼に協力した人々の姿を描いたノンフィクション。戦後、接収されて陳経綸中学校となっている現在でもこの地で彼の名前は記憶されているという。
伝道に赴いた北京で見たスラム街の子供たち、特に売春等に身を落とさねばならない少女たちのため、手に職をつけて自立して生きていけるように読み書きと手芸を教える無料の学校を設立。教育事業であると同時に、彼女たちの縫ったハンカチやテーブルクロスなどを販売して収益を上げるという方法は社会起業の先駆のようで興味深い(実際、清水は近江兄弟社とも関係があった)。この工読女学校は後に中等教育機関として崇貞女学校に発展。中国人だけでなく日本人や朝鮮人の子女も入学したらしい。さらに天橋のスラム街でも同様のセツルメントを行なった。敗戦後、日本に帰国した清水は桜美林学園を設立。この大学には中国語学科があるが、このような背景があったというのは初めて知った。工読女学校の最初から協力してきた羅俊英という女性が、何の政治性もないにもかかわらず、戦後、漢奸として投獄され非業の死を遂げたという悲劇には何とも言葉がない。
細かい話だが個人的な関心としてメモしておくと、崇貞学園の理事の一人に台湾出身の音楽家、当時は北京師範大学で教壇に立っていた柯政和の名前があった。江文也を北京師範大学へ招聘した人である。
| 固定リンク
「近現代史」カテゴリの記事
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:七日目】 中薗英助『夜よ シンバルをうち鳴らせ』(2020.05.28)
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:六日目】 安彦良和『虹色のトロツキー』(2020.05.27)
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:五日目】 上山安敏『神話と科学──ヨーロッパ知識社会 世紀末~20世紀』(2020.05.26)
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:四日目】 寺島珠雄『南天堂──松岡虎王麿の大正・昭和』(2020.05.25)
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:二日目】 橋川文三『昭和維新試論』(2020.05.23)
「ノンフィクション・ドキュメンタリー」カテゴリの記事
- 武田徹『日本ノンフィクション史──ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで』(2019.02.04)
- 髙橋大輔『漂流の島──江戸時代の鳥島漂流民たちを追う』(2019.02.02)
- チャイナ・ミエヴィル『オクトーバー──物語ロシア革命』(2018.02.20)
- 稲葉佳子・青池憲司『台湾人の歌舞伎町──新宿、もうひとつの戦後史』(2018.02.13)
- 佐古忠彦『「米軍が恐れた不屈の男」──瀬長亀次郎の生涯』(2018.02.14)
「中国」カテゴリの記事
- 【七日間ブックカバー・チャレンジ:七日目】 中薗英助『夜よ シンバルをうち鳴らせ』(2020.05.28)
- 王明珂《華夏邊緣:歷史記憶與族群認同》(2016.03.20)
- 野嶋剛『ラスト・バタリオン──蒋介石と日本軍人たち』(2014.06.02)
- 楊海英『植民地としてのモンゴル──中国の官制ナショナリズムと革命思想』(2013.07.05)
- 広中一成『ニセチャイナ──中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京』(2013.07.03)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント