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2010年3月21日 (日)

「息もできない」

「息もできない」

 借金取立てなど暴力的な裏稼業に生きるサンフン(ヤン・イクチュン)。母は死に、父と弟は精神的にすさんでしまった家庭の中で踏ん張ろうとしている女子高生ヨニ(キム・コッピ)。ふとしたきっかけで出会った二人は、それぞれの孤独な内面に相通ずるものを嗅ぎ取ったのか、互いに悪態をつきながらも次第に心安く付き合える関係になっていく。サンフンの心境に変化が芽生え、裏稼業から足を洗おうとするが、その変化は彼には珍しいスキとなり、運命は暗転──。

 この映画で描かれる光景には監督自身の生い立ちの中での体験が反映されているという。貧困やすさんだ家庭環境が世代間で再生産されてしまう問題は社会学でよく指摘されている。映画の背景にある韓国の「ヴェトナム・シンドローム」について日本ではあまり知られていないが、例えば金賢娥(安田敏朗訳)『戦争の記憶 記憶の戦争──韓国人のベトナム戦争』(三元社、2009年→こちらで取り上げた)で触れられている。

 ただし、こういった背景を理屈として分析したとしても「上から目線」のもどかしさを感じてしまう。そこには収まりきれない内面的なところでわだかまるどうにもならない焦燥感を主人公の粗暴な振る舞いの中から立ちのぼらせ、観客に追体験させていけるところにこの映画の意義があると言えるだろうか。情緒的な思いやりが強いのにそれをうまく表現できないサンフンの不器用さ。泥沼のように構造的な負の連鎖から脱け出せない困難。映画終盤でサンフンの親族・友人たちが集まった擬似家族的な団欒のシーンに一つの希望が示されるが、その中に彼の姿はない。映画としての完成度が高いだけに、このシーンに込められたつらさがいっそう強く胸をうち、コメントがなかなか難しい。

【データ】
監督・主演・脚本・製作:ヤン・イクチュン
2008年/韓国/130分
(2010年3月21日、渋谷・シネマライズにて)

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 これが長編映画の監督デビュー作だというのだから恐れ入る。  『息もできない』の素晴らしさは、制作・監督・脚本・編集・主演のヤン・イ... [続きを読む]

受信: 2010年4月17日 (土) 03時46分

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