河西秀哉『「象徴天皇」の戦後史』
河西秀哉『「象徴天皇」の戦後史』(講談社選書メチエ、2010年)
「象徴」という言葉は実に曖昧で、捉えようによっては相異なる立場からの意味づけも可能となる。本書は、敗戦直後から「象徴天皇制」確立に至るまで様々にかわされた天皇制をめぐる議論を検討、一定のコンセンサスへと収斂していく過程を整理してくれる。そこからは、日本国民統合の支柱としての天皇の伝統的存在感を、戦後民主主義という新しい価値観へどのようにして適応させていくかという葛藤が浮かび上がってくる。例えば、政界保守派に根強かった天皇を統治の中心と位置付ける考え方と、学生運動の反発に見られた「一人の人間」として捉える天皇観との対立は、そうした相克の極端な表出だったとも言えよう。
天皇退位論には二つの考え方があった。第一に、昭和天皇自身の自発的退位によって国民を納得させようという道義的責任。第二に、戦争という過去のイメージから切り離して新しい国家像にふさわしい天皇を選びなおそうという意図。この二点によって天皇制の存続が含意されていた。後者の新しい天皇像は皇太子(今上天皇)が引き受ける形となり、外遊やミッチー・ブームなどが検討される。こうして象徴天皇制が確立されていくにあたり、マスコミの果たした役割、民衆との関係が強く意識されていたこと、「文化平和国家」という戦後日本のナショナル・アイデンティティーと結び付く中で天皇像が再定義されたことが指摘される。
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