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2010年3月12日 (金)

宮本太郎『福祉政治──日本の生活保障とデモクラシー』『生活保障──排除しない社会へ』

 宮本太郎『福祉政治──日本の生活保障とデモクラシー』(有斐閣、2008年)は戦後日本での福祉をめぐる政治の展開を整理する。戦後日本の福祉政策は福祉レジーム(所得再配分)よりも雇用レジーム(雇用の保障)に力点が置かれ、それは業界・会社・家族によって成り立つ「仕切られた生活保障」という形をとった。これを担ったのは幅広い利益を包摂した自民党政権であり(経済成長の前提要件として格差是正が必要という考え方)、対して左派野党の急進性→平和問題など「文化政治」が対立図式の主軸となり、福祉は政治的争点としては傍流に置かれてしまった(左派は建前としては福祉を標榜しつつも、その具体案は示さず)。保守政権は、デモクラシーという制度的しばりがあったからこそ、様々に相反する利害対立に二股かけざるを得なかったとも言える。近年、福祉制度の再編が迫られ、市場主義的な構造改革の進行と共に、「行き過ぎた平等社会」論と「格差社会」論とが奇妙な共存。社会的公正を多くの人々が納得できる原理が確立されていない中、政治の膠着状態。言説政治の変化(かつての調整型言説→小泉ブームに顕著に表われたようにコミュニケーション的言説の肥大化)についての議論に興味を持った。背景として、従来制度の揺らぎ、利益団体経由の組織政治が機能不全、個別利益の多元化、政治の集権的傾向といった要因が指摘される。コミュニティーや家族などがもはや自明視されなくなっている現在、ライフスタイルの再定義も含め、人々の社会参加を通したライフ・ポリティクスという問題意識が示される。

 これまで日本の福祉政策が依拠してきた「仕切られた生活保障」は、その前提条件である持続的雇用がグローバル化・脱工業化の進展により掘り崩されてしまっている。宮本太郎『生活保障──排除しない社会へ』(岩波新書、2009年)はこうした中で新しい生活保障をどのように制度設計すればよいのか、その方向性を模索する。考えねばならない条件として、①社会の流動化・個人化→柔軟性に対応した制度、②人間としての相互承認を可能にする「生きる場」の確保、③ワーキング・プア等の増大→補完的保障、④社会全体の合意可能性を挙げる。比較モデルとしてスウェーデン型生活保障のプラス・マイナス両面を検討(高福祉が必ずしも経済成長とトレードオフの関係にあるわけではない。就労支援としての雇用保障により労働力の流動もスムーズ。ただし、近年の経済環境の変化により雇用減少という現実に直面)。そこから、「殻の保障」(例えば、日本の「仕切られた生活保障」)ではなく、スウェーデン型の「翼の保障」、つまり困難やリスクに直面したときにそれを乗り越えて社会参加し続けられるよう支援という考え方を引き出し、アクティベーションと表現。就労を軸にした社会参加と税負担とが対になったルールの明示化により社会的合意を得て、排除される者のない社会形成へ向けた方策を探る。

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