岡本隆司『世界のなかの日清韓関係史──交隣と属国、自主と独立』、岡本隆司・川島真編『中国近代外交の胎動』
岡本隆司『世界のなかの日清韓関係史──交隣と属国、自主と独立』(講談社選書メチエ、2008年)は、清朝の勃興、徳川幕府による日本統一、16世紀以降、パワー・バランスの中にあった朝鮮の立場を軸として日清・日露戦争に至るまでの東アジア国際関係史を描き出す。視点が斬新でとても面白い研究だ。清との宗属関係、日本との交隣関係、微妙なバランスで日=韓=清の関係が成り立っていたが、欧米列強の進出、明治日本の台頭によって状況が一変。朝鮮の清に対する「属国」でも「自主」でもない曖昧さを残した宗属関係は、日本・清・欧米列強の勢力均衡の中で成立していた。しかし、袁世凱はこの「属国」の実体化を図ってバランスが崩れ、清朝優位の均衡状態を覆そうと日本は武力行使→日清戦争。ただし、1896年の俄館播遷で日本優位も失われてロシアとのにらみ合い→再びの均衡状態の中で朝鮮は独立自主を目指すことになる。一連の情勢下、井上毅が朝鮮中立化構想を提案したり、李鴻章の肝煎りでお雇い外国人として朝鮮に送り込まれたデニーやメレンドルフらがむしろ朝鮮の自主独立を支持して清朝側の不興をかったりといったエピソードも興味深い。
岡本隆司・川島真編『中国近代外交の胎動』(東京大学出版会、2009年)は、伝統・近代という後知恵的な二項対立の分析枠組みではなく、内在的・外在的要因の絡まり合う中で中国の近代外交が形成されていく動態を実証研究の組み合わせで提示しようとした論文集。外交を担当する人員やセクション、条約交渉に関する論文が中心。華夷観の根強い「夷務」の時代(19世紀前半~1870年代)、清朝側に条約関係へ対処する態勢が現われ始めた「洋務」の時代(19世紀後半)、そして「外務」の時代(~20世紀初頭)の三部構成。清朝の主観的認識としてなら「朝貢システム」論は成り立つが、他方で「互市」→政府間通交の有無や上下の序列は関係ない。在外領事や在外公館のあり方→「洋務」期に制度的な改革が行なわれたわけではないが、体制外的な方法によって対外交渉の担い手が現われつつあった。在外華僑への棄民政策から保護政策、さらに動員へという変遷→中華帝国の近代的再編が指摘される(領域的にどこを守るか?と同時に、誰を守るか?という問題意識の表われ)。
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