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2010年3月19日 (金)

広井良典『定常型社会──新しい「豊かさ」の構想』『持続可能な福祉社会──「もうひとつの日本」の構想』『グローバル定常型社会──地球社会の理論のために』『コミュニティを問いなおす──つながり・都市・日本社会の未来』

広井良典『定常型社会──新しい「豊かさ」の構想』(岩波新書、2001年)
・高齢化、人口・資源が量的に均衡点に向かいつつある、つまり経済の拡大成長を主要目標とはしない社会。こうした「定常型社会」における持続可能な福祉社会をどのように構想するかを模索。
・伝統的社民主義・ケインズ主義(大きな政府)/伝統的保守主義・市場主義(小さな政府)→方向性が正反対に見えても、経済成長志向という点では両方とも同じ。
・「個人の機会の平等」→原理的に突き詰めればスタートラインを同じ地点に設定しなければ公正とは言えない→相続税の強化(資産格差が出発点における機会の不平等を生み出してしまうのだから、相続税を財源として「人生前半の社会保障」に充当→個人の潜在的自由を保障)。現実問題としては、ハンディを負った人でも潜在的自由を保障する必要である点に社会保障の意義を求める。つまり、個人のライフサイクルを座標軸とした社会保障。事後的な施策ではなく、将来のアクシデントに備えて未然防止としてのセーフティネット。
・資源・環境など地球規模での制約の中にあっても存続できる福祉社会。
・個人単位ではなく、世代間継承を意識。
・高齢者や子供は土着性が強い→地域重視。
・時間の消費(余暇・レクリエーションなど文化活動、ケア、生涯学習など自己実現)→市場経済の枠組みには収まらない。

広井良典『持続可能な福祉社会──「もうひとつの日本」の構想』(ちくま新書、2006年)
・「持続可能な福祉社会」=「定常型社会」:個人の生活保障や分配の公正が十分実現されつつ、それが環境・資源制約とも両立しながら長期にわたって存続できる社会」。
・上掲書で展開された議論を踏まえ、社会保障のあり方と長期的持続性とを結び付ける形でライフサイクル、雇用、教育、年金、再分配、資本主義、環境、医療、コミュニティなど様々な論点を検討。
・かつて日本では「終身雇用」(会社単位)「核家族」による「見えない社会保障」という形を取ったため、社会保障は老後・障害者などこのシステムから外れた人々への手当て(事後的な施策)として捉えられてきた。しかし、雇用流動化、格差拡大などの社会的変化を踏まえ、会社単位ではなく個人のライフサイクル単位で社会保障を考えなおす必要。人生の後々まで影響を及ぼしてしまう人生前半期での社会保障(とりわけ教育機会の平等)という問題意識。
・言い換えれば、自立した個人を前提としつつ、それを支える公共性の確立を理念とする。情緒的共同体が同心円的に広がるつながり、独立した個人としての公共意識に基づくつながり、両方のつながりをバランス。

広井良典『グローバル定常型社会──地球社会の理論のために』(岩波書店、2009年)
・「定常型社会」=「持続可能な福祉社会」を構想して上掲書で展開された議論を、文明史的な次元で大きく捉え返していく。
・ナショナル・ミニマムは、誰を福祉国家内の成員とみなすかを確定しなければならないという意味でナショナリズムと親和的な考え方→グローバル・ミニマム。

広井良典『コミュニティを問いなおす──つながり・都市・日本社会の未来』(ちくま新書、2009年)
・国家レベルと個人レベルとの中間団体としてのコミュニティ。→「生産のコミュニティ」/「生活のコミュニティ」、「農村型コミュニティ」/「都市型コミュニティ」、「空間(地域)コミュニティ」/「時間(テーマ)コミュニティ」、それぞれのタイプの重なり合いとしてコミュニティを把握。
・「農村型コミュニティ」は情緒的・非言語的つながり(内部的関係性)、対して「都市型コミュニティ」は規範的・理念的ルールの普遍性に基づく開放的なつながり(外部的関係性)。→後者が重視される一方、人間は感情的次元を持つため、相互補完性が不可欠となる。
・「私」(→市場)中心のシステムが進展するにつれてインフォーマルな「共」的基盤が弱体化。しかし、それに代わる「新しいコミュニティ」(公共性)としての関係性を基礎付ける価値原理が未確立。
・「公」(政府レベル)─「共」(地域社会)─「私」という重層性。
・戦後日本社会では「終身雇用」による「見えない社会保障」という形を取ったため、社会保障の問題は老後に集中。しかし、社会構造の変化(雇用流動化、格差拡大)→「機会の平等」か「結果の平等」かという対立ではなく、前者の保障のためにこそ制度的介入が必要となる。従って、「人生前半の社会保障」が政策的に必要。
・ケアの空間化という問題意識。世代的継承性→「持続可能な」地域社会としてのコミュニティ政策。「都市」的視点と「福祉」的視点とを別個に立てるのではなく、両者を絡ませた形での政策が必要。
・近代科学の基盤としての要素還元主義に沿って従来の社会政策は組み立てられてきた。しかし、個体間のコミュニケーションがケアの本質的意味として重要であり、その場としての「コミュニティ」。

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