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2010年3月 4日 (木)

「渇き」

「渇き」

 人の役に立ちたいと熱望するが虚しさを抱えているカトリックの神父、サンヒョン(ソン・ガンホ)。気持ちを吹っ切るようにアフリカの伝染病研究所へ行くが、そこで病気に感染、しかし何とか一命はとりとめた。帰国したものの、体の様子がおかしい。知覚が鋭敏になり、日の光が恐ろしく、人の血に激しい欲望を感じる──。ヴァンパイヤとなった彼の前に現われたのが幸薄き女性テジュ(キム・オクビン)、ファム・ファタールとも言うべき彼女の振る舞いはやがてサンヒョンの運命を狂わせていく。

 ところどころシュールな演出があって目を引くが、やはり印象的なのはテジュ役キム・オクビンの存在感。どこかあどけなさも感じさせる顔立ちだが、ストーリーの進行に伴ってその表情が目まぐるしく変化していくのが見所だ。最初は不幸な結婚に打ちひしがれて青白い顔色。この息苦しさから脱け出せるという純情そうな憧れ。性愛の喜びに嗚咽を漏らすなまめかしさ。体を血みどろに絡み合わせて彼女もヴァンパイヤとして生まれ変わってからは、嬉々として人の生血をすすりまくる。今までのジメジメとした人生をかなぐり捨てたような高揚感。インモラルというのを突き抜けたその奔放さは、サンヒョンの心中に疼く良心を対比的に際立たせる。ただし、抑圧された欲望の解放とモラルとの葛藤というこの映画に伏流するテーマにあまり深刻さが感じられないのは、韓国のキリスト教には結構カルト的なものが多いという先入観を私が持っているせいだろうか。

【データ】
原題:Bak-Jwi 英題:Thirst
監督:パク・チャヌク
2009年/韓国・アメリカ/133分
(2010年3月3日レイトショー、新宿・武蔵野館にて)

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受信: 2010年3月 6日 (土) 12時41分

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受信: 2010年3月 7日 (日) 20時22分

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