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2010年3月23日 (火)

厳善平『叢書★中国的問題群7 農村から都市へ─―1億3000万人の農民大移動』、秦尭禹『大地の慟哭──中国民工調査』、清水美和『中国農民の反乱──昇竜のアキレス腱』、李昌平『中国農村崩壊──農民が田を捨てるとき』、他

 厳善平『叢書★中国的問題群7 農村から都市へ─―1億3000万人の農民大移動』(岩波書店、2009年)は、統計データを踏まえて中国の人口動態を概観。その中から農民工をめぐる構造的問題、とりわけ都市戸籍と農村戸籍の二元体制に起因する社会問題を浮き彫りにする。
・民国期の人口移動は原則的に自由、ただし移動人口の総人口比は低かった。動乱期の移動が目立つ。文革等の下放では都市から農村への政策的・一方的移動。
・中国人海外移動者を出身地別に見ると近年は多様化。在日中国人登録者数を見ても、かつては福建出身者(華僑を輩出)が多かったが、1980年代以降は大都市(上海・北京)、残留孤児等(遼寧・黒竜江)ほかと出身地の多様化傾向。
・農民工の移動の性質は2000年代に転換:①農民と非農民の兼業→非農業の専業へ、②農村・都市間の移動→都市社会への溶解へ、③生存目的の出稼ぎ→平等の追求へ。
・①「離土不離郷」→②「離郷不背井」(出稼ぎ→他地域居住は3か月以内に規制されているが、実態ははるかに超過して不法滞在→労働力として必要がなくなったらいつでも追い返せる仕組み)→③「離郷又背井」(都市定住化が進行中)。
・一人っ子政策で少子化→若年労働力の供給が減少、他方で労働需要は拡大→40歳以上の労働供給が増加。
・都市住民と農民工との賃金格差、給料の遅配・不払い。社会保障なし。子供の教育問題への影響。三無人員(住民身分証、暫住証、在職証なし)→強制送還でトラブル。
・都市/農村戸籍の二元体制により、都市に流入した農民工の地位は立場的に不安定、そこにつけこんで使い捨て可能→コスト抑制策として利潤の最大化→中国企業の経済発展を支えてきた。民工荒(労働力としての農民工不足)問題は、労働力の不足というよりも、使い捨てによって熟練労働力としてのスキル向上(人的資本の蓄積)が図られなかったところに起因するのではないかと指摘される。また、近年、人件費の上昇が見られるが、これは経済水準が上昇したからというよりも、本来なされるべきであった社会保障に遅まきながらも目が向けられつつあるという側面もある。

 秦尭禹(田中忠仁・永井麻生子・王蓉美訳)『大地の慟哭──中国民工調査』(PHP研究所、2007年)は、都会の最底辺にあって経済を支えているにもかかわらず、無視され、差別を受け、過酷な労働待遇にあえぐ農民工たちが直面している実態を描き出す。収入が乏しいというだけではない。不安定で孤独な中での精神的つらさ、結婚難や性生活の不如意。労災があっても保障はなく、経営者がコスト抑制を図って不衛生な生活環境の中で暮らさざるを得ず、健康被害に見舞われている。権利問題についての無知のため泣き寝入り、抗議しようにも方法がない。「民工荒」問題の背景としては、企業管理のまずさのため、よりましな待遇を求めた民工の移動という側面もある。民工の子供たちの問題も深刻だ。都市で親と一緒に暮らしても、都市民からの差別により疎外感、教育機会も不均衡。民工学校設立などの努力はなされているが、公立学校との落差は大きい。故郷に残っても、親から離れて暮らすため精神的不安定。いずれの場合にも心理的ケアの必要が指摘される。幼少時環境の劣悪さには格差再生産のおそれがうかがわれてくる。

 清水美和『中国農民の反乱──昇竜のアキレス腱』(講談社、2002年)は農民問題に焦点を合わせて取材したルポルタージュ。農村で権力を振るう地方幹部=「土皇帝」の横暴、その半面としてのパターナリズム。都市/農村戸籍の二元体制の中で農民が事実上の「二等公民」として縛られ、そうした状況を合わせて考えてみるとまるで封建時代の再来のようにも見えてくる。農民工として都市に出ても差別を受ける。民工学校の努力も紹介される。土地の流動化は農民の生活基盤そのものを崩してしまう可能性がある。「法輪功」の整然としたデモ活動をはじめ、農民層に静かに鬱積している爆発力がほのめかされる。

 中国内陸部の農民たちが置かれた惨状には構造的な人災としての側面が強い。地方幹部の腐敗、農民に課された重い負担金。農民たちは痛めつけられても抗する手段がない。李昌平(北村稔・周俊・訳、吉田富夫・監訳)『中国農村崩壊──農民が田を捨てるとき』(日本放送出版協会、2004年)の著者は、自身湖北省の農村の幹部であるが、荒廃した農村問題について当時の朱鎔基首相に直訴の書簡を送った。政府上層部がいわゆる「三農問題」に目を向けてもなかなか解決の目途が見えてこないところに問題の根深さがうかがえてくる。陳桂棣・春桃(納村公子・椙田雅美訳)『中国農民調査』(文藝春秋、2005年)は、安徽省でおこった農民たちの集団直訴(上訪・信訪)事件の取材を通して同様の問題を浮き彫りにしようとしている(→こちらで取り上げた)。

 都市に出てきた農民工が働く都市の工場現場については、以前にこちらアレクサンドラ・ハーニー(漆嶋稔訳)『中国貧困絶望工場──「世界の工場」のカラクリ』(日経BP社、2008年)、Leslie T. Chang, Factory Girls: From Village to City in a Changing China (Spiegel & Grau, 2009。邦訳はレスリー・T・チャン『現代中国女工哀史』栗原泉訳、白水社、2010年)を取り上げた。前者ではコスト抑制のため過酷な労働条件がまかり通っている現状について、後者ではむしろ夢を追って都会に出てきた少女たちの表情が描かれている。

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