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2010年3月29日 (月)

園田茂人『不平等国家 中国──自己否定した社会主義のゆくえ』、王文亮『中国農民はなぜ貧しいのか』『格差大国中国』、王文亮編著『現代中国の社会と福祉』、大泉啓一郎『老いてゆくアジア──繁栄の構図が変わるとき』、飯島渉・澤田ゆかり『叢書★中国的問題群10 高まる生活リスク──社会保障と医療』

 経済発展著しい一方で、貧富の格差拡大などひずみが顕在化している中国。そうした問題を考える上でまず手に取るべきは園田茂人『不平等国家 中国──自己否定した社会主義のゆくえ』(中公新書、2008年)だろう。農民工の急増からは都市と農村との分断状態がうかがわれる。都市中間層は官製メディアに対する不信感など近代的民主主義に親和的な性格を持つ一方で、生活水準が向上した現状維持を望む保守的傾向が見られる。都市民の農民工に対する差別意識はよく指摘される。学歴社会化→科挙の伝統を考えると「過去へ進化する社会主義」という見通し。

 共産党の権威主義支配体制と近年進展しつつある市場社会化。両方がもたらすひずみはやはり社会的弱者へとしわ寄せされてしまう。彼らへの手当ては残念ながら惨憺たるもので、とりわけ都市と農村の格差が深刻なようだ。王文亮『中国農民はなぜ貧しいのか──驚異的な経済発展の裏側で取り残される農民の悲劇』(光文社、2003年)、同『格差大国中国』(旬報社、2009年)は具体的なトラブルを通して問題を検討する。いわゆる「一人っ子政策」→人口の年齢構造、家族関係が変化する一方で(「四二一家庭」「空巣家庭」)、伝統的な家族福祉が当然視されているため、農村住民の老後を支える社会保障の構築がなおざりにされてきたことが指摘される。在宅介護の問題。医療・生活保護の都市・農村格差。農村での医療・衛生資源は限られているため、病気療養では子供や高齢者よりも労働年齢層を優先→経済的な理由による消極的安楽死もあり得る。病気→貧困→病気の悪循環。

 王文亮編著『現代中国の社会と福祉』(ミネルヴァ書房、2008年)は現代中国におけるライフスタイルの変化が社会保障に及ぼす影響についての各論を分担執筆。生活水準向上による消費スタイルの多様化とトラブル。性意識・結婚・家族観の変化。教育機会の地域的・階層的不平等、大学生の就職難(雇用のミスマッチ、頭脳労働偏重で技術労働者が少なくなっている)。高齢社会化の一方で、下の世代における家族意識の変化により扶養機能の弱体化。年金制度の問題。都市社会の変容とコミュニティ・サービス。障害者福祉(自助努力が基本だが、実際には就業困難という問題)や障害者教育。農民工の労働環境と社会保障体制の問題(農村モデル、都市モデルが難しい中、都市部で農民工のみを対象とする独立モデルが注目される)。農民工の子供の教育問題(民工学校、留守児童)。

 大泉啓一郎『老いてゆくアジア──繁栄の構図が変わるとき』(中公新書、2007年)は、ライフスタイルの変化による出生率の低下傾向が東アジア全域で見られることを指摘。中国の「一人っ子政策」についても、これが出生率低下の原因というよりもむしろ加速要因だと捉える(従って、「一人っ子政策」をやめたからといって出生率が上向くわけではない)。本書の特色は人口ボーナスの指摘。つまり、出生率の低下→生産年齢人口、一人当たり所得、国内貯蓄率、一人当たり医療・衛生サービス等の増加→経済発展を後押し。この人口ボーナス効果が持続している間に次なる高齢社会に向けた準備が必要。中国では、農民工の都市部への流入→都市部は人口ボーナス効果を享受する一方で、農村部では高齢人口の割合が高くなるため人口ボーナス効果が早く薄れてしまう→都市・農村間の経済格差が拡大し、農村部の高齢化がますます進んでしまう問題が指摘されている。

 飯島渉・澤田ゆかり『叢書★中国的問題群10 高まる生活リスク──社会保障と医療』(岩波書店、2010年)は、中国における社会保障や医療政策について歴史と現在のシステムを概観。衛生制度の進展における日本モデルの影響については飯島渉『感染症の中国史──公衆衛生と東アジア』(中公新書、2009年)でも取り上げられていた。
・清朝期は生活保障について「小さな政府」と家族・地縁的相互扶助→中華民国期に国家による管轄領域が広がり始め、社会主義革命後は公的事業として草の根レベルまで浸透。ただし、計画経済において、「国」よりも「単位」中心。社会保障資源は一次分配として賃金と同時に生産現場で支給される制度設計→完全・終身雇用が前提だが、実際には対象者の空白が大きかった。
・改革開放以降は、市場原理の導入。しかし、農民工など低所得者の社会保険加入率は低く、社会保障システムへとなかなか包摂できない現状。
・こうした趨勢の中、家族・地域社会といった伝統的担い手、大企業・経済的有力者の慈善へと回帰しているかのようにも見えるが、他方で政府がセーフティネットとして社会保障・最低生活保障を提供しようという原則があることにも留意。
・香港は自由主義レジーム→小さな政府。

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