西村成雄・国分良成『叢書★中国的問題群1 党と国家──政治体制の軌跡』、国分良成『現代中国の政治と官僚制』、毛里和子『新版 現代中国政治』
西村成雄・国分良成『叢書★中国的問題群1 党と国家──政治体制の軌跡』(岩波書店、2009年)
・中華人民共和国以前を「反動」とみなす共産党史観ではなく、清末・中華民国・中華人民共和国の連続性を重視する20世紀中国史観に立って政治体制の動態を概観。近代化・「富強」志向と政治的統一のための強権主義、普遍的価値と中国的特殊性との葛藤、ウェスタン・インパクト以来の国際社会への参入過程など様々な論点があり得るが、本書は「党と国家」の関係に注目。人民から政治的意思を授権されたという擬制に党が国家・政府を創出・指導する正統性を求めるロジック、この点で中国国民党と中国共産党は同じ性格を有していた。なお、共産党は半恒久的な権力保持を想定しているのに対し、国民党の場合には、孫文が提示した政治プログラム(軍政→訓政→憲政)に将来的な民主化が組み込まれていた点で相対的には近代民主主義に親和的→「中華民国在台湾」における民主化が可能となった。
・蒋介石への権力集中→中国国民党と国家機関の融合関係が制度化。ただし、蒋介石主導の「訓政体制」の下でも、権力集中への抵抗が党内に存在。
・中華民国の水平的正統性の重層性:①広東派は蒋介石政権を承認しないが、国民政府は認める。②地方実力者は国民政府の正統性を必ずしも認めるわけではないが、中華民国からは離脱しない。③少数民族地域権力や中国共産党は中華世界の範囲内には留まった。→南京国民性は、こうした水平的(範囲)、もしくは垂直的(中央‐地方関係など制度面)正統性の拡大に努めた→「以党治国論」の制度化(1931年「中華民国訓政時期約法」、1935年の幣制改革など」。
・戦後、訓政→憲政への移行(民主化)という政治的争点が社会的に広がりを見せる(アメリカからの民主化要求も共振)→双十協定、政治協商会議の開催など政治交渉の場を創出。
・中華人民共和国は、前半30年(建国~毛沢東の死、文革の終結)と後半30年(近代化へ向かう)に分けられるが、党国体制という点では同じ、政治手法が相違。
・WTO加盟→国内産業の改編が必要→初めに指導部の決定ありきで、次に各産業界への説得という順番(社会主義市場経済の「社会主義」の側面)。
・共産党は本来、労農階級の代表であるが、江沢民の「三つの代表論」で「広範な人民」の代表と位置付け→新たに登場した社会階層の包摂。共産党のエリート集団化→実質的な「ブルジョワ」政党化。「党国コーポラティズム」。太子党の人的ネットワークなど既得権益層の固定化。
国分良成『現代中国の政治と官僚制』(慶應義塾大学出版会、2004年)
・①党の指導の絶対性→社会主義官僚組織の自己浄化能力の難しさ。②専門的機能分化の制度化という意味での「近代化」の有無。③歴史的な政治文化の脈絡における「人治」の問題。こうした問題意識を分析視角として中華人民共和国の官僚機構、具体的には経済政策を担当する国家計画委員会を分析。
・第一次五カ年計画期(1953~57年):ソ連モデルの模倣→重工業一辺倒、中央集権化→ここからもたらされた官僚主義、他の産業分野軽視といったひずみを見て毛沢東は中国には合わないと認識→大躍進運動(1958~59年):毛沢東の「鶴の一声」。彼の圧倒的なカリスマを前にして経済官僚は意見を言えず、大失敗(直言した彭徳懐は失脚)。地方からは水増し報告。責任転嫁の無責任体制→失敗が教訓としていかされず、むしろ次の失敗を誘発してしまう悪循環。
・劉少奇・鄧小平たちの調整政策で経済再建→毛沢東の猜疑心→文化大革命。
・1980年代:上意下達方式の政策決定ではなく、下からの積極的な動きを生み出す効率的な政治システムの創出が目標となった。そのため「人治」を排して、いかに近代的な官僚機構を確立させるかが課題。党政分離が提起されたが、天安門事件で頓挫。
・市場化による競争原理の導入→格差や富の偏在といった問題→分配機能を有効に果たす制度が実質的に失われている。
毛里和子『新版 現代中国政治』(名古屋大学出版会、2004年)
・比較政治論の視座を駆使して、毛沢東時代・「四つの現代化」時代それぞれの政治プロセス、国家・共産党・軍隊が絡み合った政策決定メカニズムをはじめ現代中国政治をめぐる多面的な論点を網羅しながら概観。スタンダードなテキストで、レファレンス本として有用。それだけでなく、各論点からは軍の政治関与、少数民族・香港・台湾などをめぐる国家統合のあり方、農民問題と村民自治、民主化、人権問題など現代中国が抱える困難も様々に浮き彫りにされてくる。
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