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2010年2月28日 (日)

北博昭『戒厳──その歴史とシステム』

北博昭『戒厳──その歴史とシステム』朝日選書、2010年

 日本近代史における「戒厳」の歴史を法的側面から整理した研究。「戒厳」などと言うとおどろおどろしいイメージも浮かぶが、本書は無味乾燥なまでに抑えた客観的な筆致で安心して読める。

 同じ暴力行使に基づく活動であっても、軍隊は外敵を対象とするのに対し、警察は治安目的で国内の市民を対象とする。軍隊が国内における治安活動を行う場合には非常警察と呼ばれ、①戦時における真正戒厳、②平時において警察の手に負えなくなった事態に対処する行政戒厳(法令上の根拠はないが、緊急勅令によって戒厳令の一部を適用。日比谷焼き打ち事件、関東大震災、二・二六事件の3例がある)、③治安出兵、の3つに大別され、治安出兵に関しては、a.地方長官の請求による出動(米騒動、朝鮮半島における三・一独立運動など7例)、b.軍隊指揮官の自発的裁量(東京砲兵工廠のストライキの例、ただし、軍専横の可能性があるためこのケースは少ない)、c.法律執行目的(訴状の強制執行で抵抗があった場合、密漁対策の漁業警察など)に分けられる。太平洋戦争のときは軍の行政責任回避のため戦時立法が事実上「戒厳」的な性格を帯びた。

 国家緊急権を欠く現行憲法体制下において「戒厳」の位置づけに関してはグレーゾーンである。一部の人々にはこうした議論に忌避感があるようだ。しかし、何らかの事態によって法的空白が生じてしまったら、それこそ何でもありの恣意的な運用を許してしまいかねないわけで、あくまでも人権擁護を第一目的とした軍隊出動・私権制限のあり方について議論を深めておく必要はあるのだろう。

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