サラ・レイン『中国のアフリカ挑戦』
Sarah Raine, China’s African Challenges, Routledge, 2009
国際戦略研究所(IISS)Adelphisシリーズの一冊。アフリカの資源獲得を目的とした中国の経済活動はこれまで欧米企業が行なってきたのと基本的な構図は同じであるにもかかわらず、欧米のマスメディアを中心に中国非難の声がこれほどまでに高いのは、中国の存在感の高まりがあまりに急激だからであろうか。本書はそうした中国非難はもはや時代遅れだという。中国が現実としてアフリカでのインフラ整備をはじめ具体的な成果をあげていることは否定しようのない事実であり、それに代わる方法を西欧は持ち合わせていない。むしろ、この中国が果たしている積極的な役割を受け止めた上で、そのプラス面・マイナス面の両方から教訓を引き出し、将来的に持続可能なフレームワークをいかに形成し、その中に中国をいかに組み込んでいくかというのが本書の問題意識である。
中国政府の権威主義的性格から対アフリカ政策も一元的に遂行されているかのように思われやすいが、実際には政府・国営企業と民間企業との間、さらには政府機関同士、国営企業同士、民間企業同士の対立・競合があって多面的であり(競争→コストカットという側面もある)、政府のコントロールが行き届いてないという。アフリカで中国企業が引き起こしているトラブルが中国の対外的イメージダウンにつながっていることに政府上層部や知識エリートは気づいているが、労働待遇の悪さや環境問題は対アフリカ問題以前に中国自身の国内問題でもあり、中国自身が問題の複雑さになかなか身動きが取れていないという印象も受ける。
アフリカで展開する中国の経済活動のプラス面としては、①援助依存よりも貿易の方がアフリカの発展に適合的である具体例を示したこと、②世界銀行・IMFによる自由化改革圧力の失敗を受けて、政府機関主導の経済活動の有効性(北京コンセンサス)、③中国自身の「グローバル・サウス」(Global South)としての自己規定→イコール・パートナーシップとして信頼を得やすかったことなどが挙げられる。また、中国の非干渉主義の態度は、一面においてアフリカの独裁国家の延命を助けているという批判もあるが、他方で、そうした独裁者は西欧が何を言おうとも反発するばかりで、そこに中国が仲介役を果たす余地もあり得る(スーダンやジンバブエの問題で中国は、少なくとも以前よりは協力的になりつつあるらしい)。西欧はアフリカ問題で中国と対立するのではなく協調関係を取ることで共通のフレームワークをつくって利害問題ばかりでなく地域紛争、崩壊国家、テロリズムなどグローバルな課題にも取り組み、さらにこのアフリカを舞台とした話し合いの中でグッド・ガバナンス、人権、民主化などのテーマに関しても中国を巻き込んでいくべきだという方向性が示される。
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コメント
「沈黙の読み込み」ことお久しぶりの邪魔猫でございます。
スティーブン・セガールのような輝けるB級と誇れる読み語りを、魅せるようになりたいと密に念うのですが…。
最近、遠藤誉氏が「拝金社会主義 中国」(ちくま新書)を書かれました。
この書、私は未読ですが、氏の国共内戦下の「チャーズ」の著述を読んだ時の揺さ振られ方は半端じゃありませんでした。
この体験は「戦後」、どのように食い荒らされたり、やり過ごされたのだろうかと、ずっと刺し込まれたままです。
blogを始めから読んでおりませんので、取り上げられたことがあるのかもしれませんが。
遠藤誉氏を潜った“ものろぎや・そりてえる‐読み”に触れてみたいです。
投稿: 山猫 | 2010年2月22日 (月) 21時43分
「チャーズ」は読もう、読もうと思いつつ、まだ未読のままです。ご紹介いただいた本と合わせて、機会を見つけて読んでみたいと思います。
投稿: トゥルバドゥール | 2010年2月22日 (月) 22時34分