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2010年2月11日 (木)

金賢娥『戦争の記憶 記憶の戦争──韓国人のベトナム戦争』

金賢娥(安田敏朗訳)『戦争の記憶 記憶の戦争──韓国人のベトナム戦争』(三元社、2009年)

 ベトナム戦争といえばまずソンミ村の虐殺事件が印象に強いが、同様に韓国軍によって行なわれた民間人虐殺について現地で遺族から聞き取りをした記録である。韓国の参戦は李承晩政権の時から検討されていたらしいが(当時はインドシナ戦争)、朴正熙政権はクーデターで成立したという正統性の欠如を意識して、アメリカの支持を得るため積極的だったという。

 韓国軍があくまでも戦闘行為の過程での事故だったという状況論理で逃げるのは当然予想されたにしても、他方でベトナム政府も「過去に蓋をして未来を見よう」という方針を出しており、その狭間でかき消されかねない記憶を一つ一つ聞き取っていく。著者も最初は「本当に民間人だったのか? ベトコンだったのでは?」と疑問を投げかけたが、やがてその質問そのものがはらむ残酷さに自ら戸惑う。事実を事実として認めることを拒む何か、当時における「反共聖戦」プロパガンダは否定したとしても、朝鮮民族は他国を侵略したことなどないという「神話」が自分の中にもあったことに気づく。参戦軍人たちのPTSDとも言うべき苦悩にも目は向けられる。

 著者は日韓関係にわだかまる従軍慰安婦問題でも聞き取りを行なっている。彼女たちがつらい過去を語ることの困難に悩む姿をベトナムの遺族たちにも重ね合わせ、歴史の真実を本当に考えようとするなら、韓国自身の問題も直視しなければならないと真摯に問いかける。

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