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2010年2月14日 (日)

ズビグニュー・ブレジンスキー、ブレント・スコウクロフト『アメリカと世界:アメリカ外交の将来を語る』

Zbigniew Brzezinski, Brent Scowcroft, moderated by David Ignatius, America and the World: Conversations on the Future of American Foreign Policy, Basic Books, 2008

 かつて安全保障問題担当大統領補佐官を務めた経験のあるブレジンスキー(民主党のカーター政権)とスコウクロフト(共和党のフォード、ブッシュ・シニア政権)、この二人がブッシュ・ジュニア政権によるイラク攻撃を批判したことは注目を浴びた。本書は2008年2~4月にかけて行なわれた対談である。2009年に就任する新大統領(対談時はまだ選挙戦の最中)にどんなアドバイスをするか?という問いをきっかけとして、イラク、イラン、パレスチナ問題(以上、中東紛争で本書全体の3分の1以上を占める)、東アジア情勢(中国の台頭がメインテーマとなり、北朝鮮問題やインドについては軽く触れる程度)、ロシアとNATOの関係、ヨーロッパとの大西洋同盟のあり方など国際情勢への向き合い方について語り合う(アフリカには言及なし)。具体的にこうせよ、という処方箋などもちろん出てこないが(そんなのはかえって眉唾物だ)、おおむねこうした方向性を取るべきだという指針は示される。話題が多岐にわたって散漫な印象もあるが、アメリカ外交政策の関心事項はどこにあるのかを全体としてレビューする上で参考になるだろう。

 個々の論点では二人に相違も見られるものの、議論の大前提として、①地球上のあらゆる人々の政治意識がこれまでにないほど覚醒しつつあり、冷戦期にキッシンジャーが活躍したような国家単位のパワー・ポリティクスの論理が通用しない現実にアメリカは直面している、こうした状況下での武力行使は情勢を悪化させるだけ、②環境問題や核拡散をはじめグローバルな課題にアメリカ単独で取り組めるはずがなく、世界の他の国々に協力を呼びかける中でアメリカのリーダーシップを発揮すべき、以上の認識で二人の考え方は一致している。

 司会者が「退任するブッシュ(ジュニア)大統領に会う機会があったら何と言葉をかけるか」と問いかけると、ブレジンスキーは「大統領、本当にありがとう、イランまで攻撃しないでくれて」と皮肉たっぷり。総じてブレジンスキーの口調は歯切れが良いのに対し、スコウクロフトは慎重で抑制的な物言いをするというパーソナリティーの違いも目立つ。

 イラク問題について二人ともアメリカは早期に撤退すべきという点では一致。ただし、ブレジンスキーは、アメリカ軍の駐留そのものが反米感情を高めてトラブルの原因になっているのだから即時撤退を主張するのに対し、スコウクロフトは、いったんイラクに入ってしまった以上、イラク軍の秩序維持能力を再建してから撤退するのでなければ無責任だと反論。

 二人とも中東情勢では悲観的なのに対し、東アジア情勢、とりわけ中国の台頭については楽観的だ。中国・日本と等距離を置いたバランシングの考え方はキッシンジャーの時と同じに見える。ブレジンスキーは日中の軍拡競争は賢明にも衝突を避けていると指摘。他方で、中国は北朝鮮問題で役割を果たしていないと不満も漏らす。

 「民主化」の問題については、それぞれの国の歴史的・社会的背景によって事情が異なるのだから押し付けには批判的。ただし、内発的な動きがあれば助けるべきだとする。アメリカは東欧革命では社会全体の大きな流れがあったので積極的に関与、しかし中国の天安門事件では、流血の事態は避けるよう警告は発したものの、中国社会全体の広範な支持が見られなかったので関与は控えたと指摘される。ネオコンの中東民主化構想については、アラブ社会に根付く反植民地主義感情を無視、概念的には曖昧だし、歴史的な根拠付けもなかったとして批判する。

 司会者が「西欧から東アジアに重心が移っているのではないか?」と水を向けると、スコウクロフトはそうした質問自体が古い発想だ、現在の国際的潮流はnational powerとは異なる性質になっていると返答。グローバルな課題についてアメリカは押し付けをするのではなく、この課題をみんなで考えようと呼びかける形でリーダーシップを図るべきだと主張する(ジョゼフ・ナイの「ソフト・パワー」に近い考え方だ)。これを受けてブレジンスキーは、アメリカは国内の議会や世論の支持がなければ重大な課題にコミットできない、国際社会に現実に起こっていることについてアメリカ国民を教育するのも新大統領の役目だと主張(「ネオコンがはびこるようなアメリカ自身をregime changeしなければならない」という発言もあった)。不公正な政治経済システムによって世界中の多くの人々が尊厳を奪われていると感じていることからボーダーレスな政治意識が高まっているという現状認識を踏まえて「人間の尊厳」(human dignity)というキーワードに二人とも同意する(ブレジンスキーは、もしオバマが当選したら、彼の出自そのものが他者の尊厳に敬意を払うことのシンボルになると言う)。

 司会者が「国益第一のリアリストと思っていたお二方が普遍的価値について語るのに驚いた」と言うと、二人ともリアリストともイデアリストとも自己規定していないと返答。ブレジンスキーは、パワーは脅威にも道具にもなり得る、それを使いこなすには何のためかという原理原則が必要で、そこに理想主義の要素も入り込んでくると語る。この発言に補足する形でスコウクロフトは、リアリズムとは出来ることと出来ないこととの明確な峻別から出発する考え方で、要は目的と手段とのバランスにあると語る。

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