ティモシー・ライバック『ヒトラーの秘密図書館』
ティモシー・ライバック(赤根洋子訳)『ヒトラーの秘密図書館』文藝春秋、2010年
ヒトラーが独学で系統立ってなかったとはいえ読書家だったことはよく知られている。本書はドイツ敗戦後に持ち去られて世界各地に散らばっているヒトラーの蔵書を調べ上げて彼の読書傾向を再構成、余白の書き込みやアンダーラインまで目を通し、時には手垢のつき具合まで確認したりして、読書というアングルから彼の人物像を描き出したノンフィクション作品。
有名な話ではあるがやはりエセ科学やオカルトの本が多いな。ナチズムのイデオローグとして悪名高いアルフレート・ローゼンベルク『二十世紀の神話』をヒトラーは嫌っていたらしい。ペダンチックで何を言いたいのか理解不能だから。そのヒトラーの『わが闘争』も、ナチスの幹部たちは実は読んでいなかった。ヴァチカンはナチスの反キリスト教的性格を憂慮しており、ナチスにカトリックの要素を注入して「善導」しようと画策してカトリックの司教アロイス・フーダル『国家社会主義の基礎』なる本を出したというのは初めて知った。色々な意味でオカルト的思想闘争が繰り広げられていたのが窺えて興味深い。
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