クリストファー・W・ヒューズ『日本の再軍事化』
Christopher W. Hughes, Japan’s Remilitarisation, Routledge, 2009
・日本の安全保障政策は近年どのように変化しているのか? その背景と要因をデータに基づいて現状分析したモノグラフ。掲題訳はちょっとこなれていないが、要するに、日本の軍事的存在感が再び高まりつつあるという趣旨。
・まず、戦後における抑制的なシステム(例えば、内閣法制局による抑制的憲法解釈や文官優位という形の官僚制度におけるシヴィリアン・コントロール、防衛費のGNP比1%枠、非核原則など)を振り返り、その上で、①防衛費支出、②軍事力の規模や展開能力、③市民との関係(かつてのような自衛隊アレルギーはなくなった)、④防衛産業との関係(軍産複合体はアメリカとのクロス・ナショナルな形を取りつつある。ミサイル防衛システムの導入はアメリカの軍事戦略に組み込まれることを意味する)、⑤国連やアメリカとの対外的協力活動、⑥国内的なコンセンサス(世論の変化→タブーはなくなりつつある)、など様々な論点から近年の変化が検討される。
・北朝鮮問題(不審船事件→海上保安庁により戦後初めての武力行使→世論の反対もなく、一つのメルクマールとなる)や中国の台頭(東アジアにおいて日中の静かな軍拡競争が進行中と指摘。ソマリア沖への日本の艦船派遣にあたっては、中国が先に派遣を決めたことが決定的だった)が背景として大きい。
・日本の軍事的存在感は高まりつつあり、政権交代があってもこの長期的な傾向は変わらないと結論付けられる。ただし、日本は民主主義国家であり、戦前のような軍国主義に後戻りすることはない。日本国内でも自主防衛論はなりをひそめ、むしろアメリカのグローバル戦略と結びついたものになる(日本は北朝鮮や中国と単独でわたり合うつもりはないし、アメリカは日本を中国に対するカウンター・パワーとして利用できる)。従来の日米同盟において、日本は憲法上の制約から財政支援・基地提供等にとどまる事実上片務的に近い形を取り、同時に、中国・韓国など周辺諸国に向けては日本の軍国主義復活への重石という説明がなされていた。今後、日米同盟は日本の能動的な役割分担を見込んだ双務的なものへと変質していくだろうし、国際社会も日本の軍事的存在感の高まりを一つの前提として考慮しなければならない。他方で、こうした情勢が周辺諸国に懸念をもたらすことを日本自身も認識しておかねばならない。
| 固定リンク
「政治」カテゴリの記事
- 筒井清忠『戦前日本のポピュリズム──日米戦争への道』(2018.02.16)
- 清水真人『平成デモクラシー史』(2018.02.13)
- 橋爪大三郎『丸山眞男の憂鬱』(2018.02.11)
- 待鳥聡史『代議制民主主義──「民意」と「政治家」を問い直す』(2016.01.30)
- 中北浩爾『自民党政治の変容』(2014.06.26)
「国際関係論・海外事情」カテゴリの記事
- ジェームズ・ファーガソン『反政治機械──レソトにおける「開発」・脱政治化・官僚支配』(2021.09.15)
- 【メモ】荒野泰典『近世日本と東アジア』(2020.04.26)
- D・コーエン/戸谷由麻『東京裁判「神話」の解体──パル、レーリンク、ウェブ三判事の相克』(2019.02.06)
- 下斗米伸夫『プーチンはアジアをめざす──激変する国際政治』(2014.12.14)
- 最近読んだ台湾の中文書3冊(2014.12.14)
コメント