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2010年1月12日 (火)

陳柔縉《台灣摩登老廣告》

陳柔縉《台灣摩登老廣告》(皇冠文化出版、2008年)

 中国語の「摩登」とはモダン(modern)のこと。本書は戦前の台湾におけるレトロ・モダンな広告を集め、日本統治期に流入した西洋の文物にまつわるエピソードを一つ一つつづっていく。台湾にカフェが初めて現われたのはいつのことだろう? そういった“台湾初”を調べようにも資料が乏しい中、新聞雑誌の広告に注目すればある程度確実な時点まで遡れるはずだという発想による。テーマ的に、著者の前著《台灣西方文明初體驗》(麦田出版、2005年)の延長線上にある。

 取り上げられる広告題目は、チューインガム、コーヒー、レーズン、ヨーグルト、アイスキャンディー、練乳、レモンティー、クーラー、冷蔵庫、ガスコンロ、アメリカ車、オートバイ、スクーター、乳母車、競馬、外国映画、ポーランド・バレエ団、海外旅行、サーカス、レコード、手品、運動靴、帽子、録画機、シャーペン、ブラジャー、毛生え薬、オブラート、脱毛剤、X線。『台湾日日新報』掲載の広告が中心。

 当時を生きた人々の回想録なども手掛かりに、これらの商品や事項にまつわる周辺的話題も丹念に拾われている。そこから当時における台湾の生活史や意識の変化が垣間見えてくるのが面白い。例えば、ブラジャーや脱毛剤が商品として販売されていたことからは、洋装に合う形で容姿を美しく見せようという意識が女性の間に広まり始めていたことがうかがえる。日本統治期の話題となると、どうしても政治的に身構えた緊張感を抱きやすいが、本書のような視点も大切だ。

 植民地という歴史的事情から日本の商品が多いのは不思議ではないが、アメリカ製品も意外と多く、アメリカ人のライフスタイルを意識した広告図案も目立つ。太平洋戦争勃発前まで日米間には経済的にも文化的にも様々な交流があった。従って、日本の経済圏内に組み込まれていた台湾にもアメリカの文物が入り込んできたという国際政治的な構図を念頭に置くと、当時の台湾における広告の背景も理解しやすいと指摘されている。

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