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2010年1月27日 (水)

頼明珠《流轉的符號女性:戰前台灣女性圖像藝術》

頼明珠《流轉的符號女性:戰前台灣女性圖像藝術》藝術家出版社、2009年

 著者は村上春樹作品の翻訳者とは同姓同名の別人のようだ。戦前の台湾美術史に表われた“女性”像の後景にひそむロジックを析出し、“女性”を取り巻いてきた抑圧的な言説を読み解こうとする趣旨の論文集である。分析手法にはカルチュラル・スタディーズやフェミニズムの色合いが濃厚。表題ともなっている第6章はこの観点からの図像分析に基づく、清代及び日本統治期における台湾美術史の簡潔な通史ともなっている。

 日本統治期に画家を志した女性の大半は日本画(戦後は“膠彩画”と呼ばれた)を学んだ。台北第三高等女学校の美術教師だった日本画家の郷原古統によって彼女たちの才能が見出されたからだが、郷原のもと以外で女性が美術を学べる場所がなかったからだとも言える。

 本書の全体的な論点としては、第一に、伝統的な儒教道徳における男尊女卑の父権制によって女性は家庭に縛られていたこと。幸運にも社会へ出るチャンスがあったとしても、第二に、植民地支配下の政治・社会環境では何を描くかということ自体に時局的な制約があったこと、以上が指摘される。男性優位の権力と政治の権力。近代化はすでに胎動し始め、知識階層には女性解放の思潮が芽生えてはいても、こうした二重の権力の壁にぶつかって立ちすくみ、自由に絵画表現の才能をのばせなかった女性たちに焦点が当てられる。中には、陳碧女のような例もある(第3章「父権與政権在女性畫家作品中的効用」)。彼女は父・陳澄波からじかに西洋画の手ほどきを受けたが、裏返せば父の模倣に過ぎない=父の束縛から逃れられなかった。その父は二・二八事件で処刑された=政治の圧迫を目のあたりにして、彼女は絵筆を折ってしまった。

 以上のような二重の制約に圧倒された中でも、陳進の存在感が特筆される。台湾第一の女性画家として著名な彼女だが、単に才能が注目されたというだけではない。第一に、自分の能力を確信して、思うものを表現するために旧社会の伝統を打ち破って自ら進んだこと。第二に、技法として日本画を学んでも(郷原の勧めで日本へ留学し、鏑木清方門下の伊東深水と山川秀峰に師事)、それを通して自分自身の境地を切り開き、原住民を含めた台湾の女性を描いてエキゾティシズムではなく自身の郷土としての台湾を表現したことが評価される。

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